[概要•疫学]
B型肝炎ウイルス(HBV)は、HBV感染者の血液や精液などの体液を介して感染し、急性、もしくは慢性の肝炎を引き起こすことが知られている。感染経路が共通であることからHBVとHIVを共感染することもしばしば認められ、全世界のHIV患者の約10%がHBVによる慢性B型肝炎を発症している。日本の調査では、HIV感染者の6.4%がHBVキャリアであった。
HBVキャリアの世界の感染分布については地域差があり、B型肝炎の有病率が0.1~2%で低いとされる地域の1つであるアメリカにて、感染の最もありふれた危険因子として、薬物注射と性的暴露(B型肝炎の感染者との性的接触、不特定多数との性パートナー、男性同性間での性交)がある。CDCの性感染症(STD)のData & Statistics Feb 13, 2013では、2008年の米国での1年間で発生したと推定される新規の性感染の総数19,738,800例におけるHBVの占める新規の性感染数は19,000例 (0.096%)で、HBVは起因因子としては第8位であった。
日本においては、1972年から輸血•血液製剤用血液のB型肝炎スクリーニングが開始され、1986年からは母子感染防止事業が実施されて、垂直感染によるHBV無症候性キャリアが減少している。近年、性的に成熟した成人による性感染による急性B型肝炎の発症が問題とされている。急性B型肝炎発症の感染経路については、2003年間から6年間の急性B型肝炎の発症報告総数1300例に対して、感染経路を3つに分類すると、感染経路の1つである性的接触が794例(61%)であったという報告がある。また、HBVには現在8種類の遺伝子型(A~H)が知られている。日本では本来アジアの慢性B型肝炎によく見られる遺伝子型B, Cが多かったが、近年は白人、アフリカ系アメリカ人の性的感染者に多いとされる遺伝子型AのHBV感染者が、急性肝炎症例で急速に増加しており、また慢性化する例が存在することが報告されている。
[臨床経過]
HBV感染では、性行為による感染機会の後、HBs抗原の陽性化が、急性B型肝炎では1-10週後に血中に出現して、大抵4~6ヶ月後に検出できなくなる。慢性B型肝炎では、症状が出てからHBs抗原が6ヶ月以上持続して血中に認められる。通常、急性B型肝炎では、HBs抗原の出現とほぼ同時期にHBe抗原とHBV DNAが検出され、これに2~3週間遅れて血清ALT値が上昇する。倦怠感、食欲不振などを訴えて患者が来院するのは、ALT値がピークに達する頃が多いが、黄疸(成人の30~50%)の出現後に来院する人も多い。
[対策•予防]
•B型肝炎ワクチン:3回接種。ワクチンの効果は、anti-HBsが10 IU/L以上であれば予防効果を
発揮する。
•コンドームの使用:HIVについては、感染のリスクを85%減少させたとの報告があり、HBVにおい
ても有効であると考えられる。
•啓発活動:教育機関などで、ワクチン接種、定期的な検査、感染リスクについての教育を行うこと
などが考えられる。
<参考文献>
•UpToDate: Epidemiology, transmission, and prevention of hepatitis B virus infection
(1/31/2013). Clinical significance of hepatitis B virus genotypes (2/5/2013). Epidemiology,
clinical manifestations, and diagnosis of hepatitis B in the HIV-infected patient (1/31/2013).
•Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases 7th edition,
p2067-p2083.
•国立感染研究所:B型肝炎ワクチンに関するファクトシート(平成22年7月7日版)
•日本性感染症学会 ガイドライン2008年度版 第2部 15 B型肝炎
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。