注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
定義:K<3.5mmol/l
考えられる疾患、薬剤、食生活などを念頭において、病歴、身体所見等をとることが大切である。カリウムが血中から減少する病態を、後で述べる4つの機序から考えると整理が出来て良い。また、次の点を抑えておくことが重要である。
・低カリウム血症の原因は腎性とそれ以外に分けられるが、後者はK+の補充に血清のK+値が良く反応する。利尿薬が原因になっている場合も薬剤中止で寛解する。腎性の場合はK+補充で、補充量に見合った尿K+値の上昇を見る。
・24時間の尿K+量が30meq以上で、少なくとも腎臓からの喪失があることを示唆する。また尿K/Cre比は重度の低カリウム血症で頻回(幅のある)の採取が不可能な患者さんに用いられ、13meq/g cr 以上で腎性の低K+血症を示唆する。
・TTKGという概念は、どれだけK+が腎臓内で分泌されているかを表すものである。低カリウム血症の腎性喪失において、これが2以下なら浸透圧利尿、4以上ならアルドステロン作用亢進が起きていると考える。
・酸塩基状態と尿中K+値の組み合わせは、原因の検索に有用である。
①代謝性アシドーシス+尿中K+低値→下部消化管を疑う
下痢では、K+と同時に多くのHCO3-が失われるので、高塩素血性のアシドーシスをきたすことが多い。
ただし下剤などの作為的な下痢では、主にアルカローシスを起こす。低カリウム血症は、絨毛性腺腫、VIP産生腫瘍、長いスパンの感染性腸炎など、長期間にわたる下痢で起こりやすい。カリウム摂取不足や、アルドステロンが関与すると考えられる。他の原因として、急性結腸偽性閉塞症、土食症など。
②代謝性アシドーシス+尿中K+高値→DKA、Ⅰ型・Ⅱ型尿細管性アシドーシス、アセタゾラミド
③代謝性アルカローシス+尿中K+低値→潜性の嘔吐(NGtubeも)、利尿薬の影響(中止時)、下剤の使用(稀だが)
④代謝性アルカローシス+尿中K+高値+正常血圧or低血圧
嘔吐、また利尿薬とその関連機序疾患の影響を考える。尿のCa/Cr比を見て、これが<0.15ならCa再吸収が亢進するサイアザイド利尿薬、もしくはGitelman症候群。>0.20ならループ利尿薬かBarter症候群を考える。しかし、これらは病歴で明らかなこともあるし、一番有用なのはサイアザイドとループ利尿薬の併用時かと思われる。
⑤代謝性アルカローシス+尿中K+高値+高血圧
鉱質コルチコイド受容体(MLR)の関与を考え、アルドステロンを計測する。アルドステロンが高値ならば次にレニン(PRA)を計測し、アルドステロン増加の原因を評価する。
レニン高値→腎動脈狭窄、レニン分泌腫瘍、悪性高血圧症。
レニン低値→原発性アルドステロン症、家族性高アルドステロン症。
アルドステロンが低値で
コルチゾール上昇ならCushing症候群によるアルドステロン様作用。
正常ならばアルドステロンもコルチゾールも必要ない、Liddle症候群や、SAMEを考える。
また高血圧患者で、利尿薬で補正が出来ていない可能性も考える。
・最後に、低カリウムの機序について整理のため分類するが、注意すべきは、体外へのK+排泄が無い場合である。
機序1、K+摂取不足 : 食生活の聴取が大切だが、腎臓にはK+希釈機能があるので、これ単独では著名なK+低下は起こりにくく、以下に挙げる原因を合併することが多い。
機序2、細胞内への移行 : Na-K-ATPase pumpの亢進や、電気化学的な平衡のため起こる。原因としてはインスリン過剰、β2アドレナリンアゴニストによる刺激やβ2含む交感神経系が亢進する疾患、アルカローシスをきたす疾患、周期性四肢麻痺を起こす疾患(発作時以外はK+値正常が特徴)、造血幹細胞の分化を促す薬剤、白血病などの血液内細胞数増加、低体温、甲状腺機能亢進、バリウム中毒。この場合過剰なK+補充には注意である。
機序3、体外への排出 : 腎臓に原因がある場合と、腎臓以外(食道胃腸、皮膚)に主因を持つ場合がある。
また、馬尿酸塩やペニシリン、抗真菌薬などによる再吸収できないアニオンに引かれたK+腎排泄は、アシドーシス、アルカローシスに関係なく、考慮される。
最後に機序4として、マグネシウム低下は細胞内流入と体外排泄の複合でカリウム低下をきたす。
*文献 Harrison : Hypokalemia、UpToDate : Evaluation of the patient with hypokalemia, Causes of hypokalemia
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