著者献本御礼
臨床現場にいると、大切な生理学とか解剖学の知識がぼんやりしてくる。ときどき復習しておかないと。
日本のドクターは一般的に自分の診療科の専門技術は極めて高い。循環器の先生は心カテとても上手だし、消化器の先生は内視鏡がとても上手だし、神経内科の先生や呼吸器の先生は画像の読影がとても上手だ。まあ、検査や手技のアプリケーション(なぜ検査・手技をするのか、検査・手技をして患者がどうなるのか)についてはイマイチなことが多いが。
もっとイマイチなのは横断的領域だ。感染症診療なんてその典型だが、栄養、疼痛管理、せん妄、不眠などの対応はほとんど「やっつけ仕事」か教授・医局の伝承である。腎臓潰すまでボルタレン座薬使いまくったり、ムシャムシャ飯食ってるのにビーフリードが入ってたり、は珍しくない。こないだ外来で不眠患者にリスパダールが処方されていて(しかも肝機能悪い人に)ひっくり返りそうになった。
こういう横断的な領域は専門家にアウトソーシングするか、きちんと勉強すればよいのだが、日本の多くの医者はそのどちらも選択しない。とくに前者はそもそもその選択肢が存在しない病院が多い。
とはいえ、自分の専門領域をアップデートしながら横断領域を勉強するのはとても大変だ。というわけで、オーセンティックな教科書よりは、さらりと読める読みやすいテキストのほうが実際的である。ただし、あくまでも読みやすさが「さらり」なのであって、コンテンツの質そのものは少しも値引きしてはならない。
最近、人工呼吸についても非専門家が使いやすい教材が増えてきたが、本書は「呼吸生理」にまで踏み込んだ点でユニークだ。呼吸生理は臨床医にとってとても重要だし、こういう「理論」を学ぶのは実はとても大切だ。臨床試験≒EBMはwhat, which, how muchは教えてくれるが、whyは教えてくれない。それを知らなくて良い、というわけではもちろんない。
学生時代、ぼくは基礎医学大好き学生で、生理学もGuiton読んで一所懸命勉強してた。まあ、思い返すとちゃんと理解できていたわけではなかったけれど。今回本書を読んで、よい復習になった。気管支動静脈のところとかは全く無理解だったので、新たな発見も多かった。強制呼気の例えとかは、とても秀逸だ。
去年、著者に神戸大学病院で講演してもらったが、説明がとても上手で分かりやすく、なかなかやるなあと感心した(あくまで上から目線)。分かりやすく説明できるのは、概念を上手に理解できているからだ。換骨奪胎するためには本質的な理解がなければ不可能で、クドクド回りくどい説明をする人は真なる理解ができていない。
生理学が苦手、嫌いな人は少なくないが、本書はそういう人でもよく理解できる易しさと優しさをもっている。優しさのほうは、「好きになる」ほうも促してくれるはずだ。
ま、これくらい褒めときゃいいよね。
コメント
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