注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
腸球菌の感染性心内膜炎に対する治療
・感染性心内膜炎の治療原則
感染性心内膜炎(IE)の治療のポイントとしては、手術介入がすぐに必要かどうかの判定、抗菌薬をすぐに開始するかどうか、起炎菌が判明するまで治療介入せずに経過をみるかどうかが重要である。
外科手術適応は、進行性の心不全や、心エコーで急性に大動脈弁や僧帽弁逆流を起こしている状態の場合、耐性微生物である真菌や緑膿菌が原因であるものなどが挙げられる。
すぐに外科手術を行わない場合で急性心内膜炎を強く疑う場合(全身状態の激しい悪化、発熱、塞栓症、新しい心雑音、心エコーによる疣贅の発見)は、30分~60分間隔での3回以上の血液培養を行った後に、エンピリカル治療を行う。急性心内膜炎の起炎菌は、黄色ブドウ球菌、A群β溶連菌、肺炎球菌が多く、抗菌薬としてはバンコマイシンが適当である。
亜急性心内膜炎が疑われる場合は、長期間の抗菌薬投与が必要であることや、有用な効果判定が血液培養陰性化であることから、血液培養の結果を待ち抗菌薬を開始することが理想的である。IE患者のうち90%以上の症例で血液培養により診断できる。抗菌薬投与による治療期間は、血液培養が陰性化してから4週間から6週間である。
・腸球菌による感染性心内膜炎
腸球菌は黄色ブドウ球菌や連鎖球菌に比べて病原性が弱く、亜急性心内膜炎の病態をとることが多いが、抗菌薬に対して抵抗性が強いため、治療期間は最低でも6週間を必要とする。腸球菌属には15以上の種があるが、臨床上で重要となるのがE.faecalis、E.faeciumである。E.faecalisの多くはペニシリン感受性があり、E.faeciumの多くはペニシリン耐性を有する特徴があり、バンコマイシンなどの抗MRSA薬を必要とする。
腸球菌がペニシリン、バンコマイシン、アミノグリコシドに感受性の場合、第一選択として、アンピシリンあるいはペニシリンGにゲンタマイシンを加える。ペニシリンは腸球菌に対して静菌的に作用するので、治療奏効率をあげるためにシナジー効果を狙いアミノグリコシドを併用する。中でもゲンタマイシンが、効果が最も高い。
ゲンタマイシンに耐性の場合は、アンピシリンあるいはペニシリンGにスプレプトマイシンを併用する。ただし、シナジー効果を期待してアミノグリコシドを使用する際には通常の耐性判定を超えるMICであっても効果が期待できるため判定には注意が必要である。非常に耐性が強い場合は、シナジー効果は得られないため、高濃度での耐性(high-level
aminoglycoside resistance:HLAR)を調べる必要がある。ゲンタマイシンでは500μg/ml、スプレプトマイシンでは1000μg/mlを超えるMICの場合、HLARと判断する。
ペニシリンに耐性で、バンコマイシンに感受性の場合はバンコマイシンを使用する。バンコマイシンとアミノグリコシドでシナジーを得ることも可能だが腎毒性は増すため、強く推奨はされていない。ペニシリン、バンコマイシンに耐性の場合はリネゾリドやキヌプリスチン・ダルフォプリスチンを用いる。リネゾリドは、バンコマイシン耐性腸球菌の患者22症例の治療のうち77%において治すことができたという報告がある(文献*)。リネゾリドの副作用として血小板減少、白血球減少がある。キヌプリスチン・ダルフォプリスチンはE.faecalisには無効であるが、E.faeciumによる菌血症は改善する。副作用としては筋肉痛が挙げられる。
Daniel J: Antimicrobial therapy of native valve endocarditis, Up to Date 2012
Baddour LM et al. Infective endocarditis : diagnosis, antimicrobial therapy, and management of complications. Circulation 2005 ; 111 : e394-434. PMID : 15956145
レジデントのための感染症診療マニュアル 第2版 著:青木眞
抗菌薬の考え方、使い方 著:岩田健太郎 感染症999の謎 著:岩田健太郎
(*)Birmingham MC et al. : Linezolid for the treatment of multidrug-resistant grampositive infections: experience from a compassionate-use program. ClinInfect Dis. 2003;36:159 –168.
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