注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
感染症内科BSL提出レポート
感染症内科BSL提出レポート
テーマ:犯人はStenotrophomonas maltophiliaか!?
Stenotrophomonas maltophilia(S. maltophilia)はグラム陰性桿菌の一種で、水回りや土壌に存在する弱毒環境菌であり、通常S.maltophiliaが感染症の原因となることは少ない。しかし近年では一部の免疫不全患者の呼吸器感染症の原因菌として認識されるようになってきている。
【臨床像】
S.maltophilia感染の臨床像には様々なものがあるが、その中でも最も多いのは肺炎であり、その次は血流感染となっている。またそのほとんどが院内感染である。ここで注意すべきなのは、喀痰からS.maltophiliaが培養されたからといって、それがすぐさまS.maltophilia感染を意味するわけではないということである。つまり、S.maltophiliaは常在菌であり気道やカテーテル等の人工物上でコロニーを作り易いという性質上、これらの部位から検出されたとしてもそれが真の感染か、汚染・定着かを区別するのは難しいのである。ではどういった場合にS.maltophilia感染を疑うべきか。ひとつは、好中球減少を伴う患者である。特に血液悪性腫瘍患者や造血幹細胞移植後の患者に多い。HIV感染もリスクファクタ-である。また長期にわたり広域抗菌薬を投与されている患者でも注意が必要である。下記に述べるようにS.maltophiliaはカルバペネム系や広域セフェム系といった広域抗菌薬に対し耐性があり、これらの薬剤の長期投与により菌交代現象が生じ、S.maltophiliaが検出されることが多い。以上のような場合で、かつ喀痰のグラム染色で細いグラム陰性桿菌が優位に認められる場合や、本来無菌である血液・腹水等の培養からS.maltophiliaが検出された場合は、感染と判断できる。
【治療】
S. maltophiliaの感染症において臨床上問題となる点として、多数の抗菌薬に対し耐性を示すことがあげられる。S. maltophiliaでは、主に多剤排出ポンプの産生および外膜の薬剤透過性の低下、他にもメタロβラクタマーゼやアミノグリコシド修飾酵素の産生といった機序により、多数の抗菌薬(カルバペネム系を含むほぼ全てのβラクタム系、フルオロキノロン系、アミノグリコシド系、テトラサイクリン系など)に耐性を示すことが知られている。
第一選択はST合剤でありトリメトプリム量で15mg/kg/dayを用い、投与期間は菌血症や肺炎の場合、所見の改善を見ながら2週間を目安とする。第二選択はチカルシリン/クラブラン酸(本邦未承認)で12.4g/dayを2週間。レボフロキサシンやミノサイクリン等も感受性率は高い。
多剤併用は菌血症、心内膜炎、骨髄炎等の重症の場合、免疫抑制の患者、ST合剤に局所的に高い耐性を持つ地域での初期治療など、より強い効果を求める場合・ST合剤への耐性を危惧する場合に行う。組み合わせはST+チカルシリン/クラブラン酸、ST+セフタジジンなど。単剤・多剤、何れの場合でも感受性・臨床所見の改善の有無で適宜薬剤を変更する。
当院でのS. maltophiliaに対する薬剤感受性率を表1に示す。ST合剤に対する感受性率は97.3%であり、第一選択薬として用いて良いと考える。
では、全ての患者に第一選択=ST合剤として治療できるかと言うとそんなに単純ではない(耐性菌である場合を抜きにしても)。例えばHIV感染とST合剤の副作用との関連があり、副作用の発生率がHIV非感染者で6~8%に対しHIV感染者で25~50%と高率で、また副作用の程度もHIV感染者ではより重症で、Steven-Johnson syndrome等の重症薬疹や好中球減少など命に関わる副作用の頻度がより高い。適切な治療の遅れは死亡率の上昇に繋がるので、これらの副作用が見られた時には直ぐに投与を止め別の薬剤に変更出来るように準備を怠らないことが大事である。
1)Stenotrophomonas maltophilia: changing spectrum of a serious bacterial pathogen in patients with cancer. Sardar A, Rolston KV. Clin Infect Dis. 2007 Dec 15;45(12):1602-9.
2)2011年前期 主要菌種のアンチバイオグラム 神戸大学医学部附属病院感染制御部
3)標準微生物学第10版 平松啓一・中込治 医学書院
4)Looney WD, Narita M, Mühlemann K. Stenotrophomonasmaltophilia: an emerging opportunist human pathogen. Lancet Infect Dis. 2009 May;9(5):312-23.
5)Sarah Stamps Lewis, Aimee Zaas. Stenotrophomonasmaltophilia. Up to date (Last updated: 3 18, 2011).
6)D Byron May. Trimethoprim-sulfamethoxazole: An overview. Up to date (Last updated: 10 15, 2010).
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