タイトルが長くてすみません。
ここ数年、経口三世代セフェムを処方することがほとんどありません。フロモックス、メイアクト、バナン、セフゾン、トミロンといった、薬たちです。その一方、「風邪」にこのような抗菌薬を出されている患者はものすごく多いですし、「熱」に対してこれらの抗菌薬を出されてかえって原因がわかりにくくなる「迷惑なセフェム」もしばしば見ます。
結論を申しましょう。もはや、医療界はもう、経口三世代セフェムと決別すべきです。もちろん、経口カルバペネムなどはもっての外です。
しばしばこれらの抗菌薬が出される上気道感染症、下気道感染症(急性気管支炎)はウイルス性で、あるいはたとえ細菌性であっても自然治癒するため、抗菌薬はそもそも不要です。急性中耳炎も急性副鼻腔炎も抗菌薬なしで治るものが大多数で、たとえ抗菌薬が必要でもアモキシシリンで治療できるものがほとんどです。細菌性急性咽頭炎は溶連菌が原因になることが多いですが、ペニシリンに100%感受性があるので、これも原則ペニシリン(サワシリン含む)で治療できます。IDSAはStrept pharyngitisのガイドラインを最近改定しましたが、「三世代のセフェムを使わぬよう」推奨しています。
http://cid.oxfordjournals.org/content/early/2012/09/06/cid.cis629.full
皮膚軟部組織感染症にも三世代セフェムがしばしば使われますが、原則グラム陽性菌がターゲットですので、むしろセファレキシンのような一世代セフェムのほうが理にかなっています(あるいはとびひのような小規模な感染症なら局所の治療だけでよくなります)。歯科口腔外科領域でも三世代セフェムは頻用されますが、これもほとんどはペニシリンやクリンダマイシンで口腔内の細菌はカバーしますから、三世代セフェムは理にかなっていません。
そもそも、三世代セフェムは100mgを1日3回みたいな使い方が多く、投与量がものすごく少なく、かつ消化管からの吸収がとても悪いのが特徴です。「抗菌薬の考え方、使い方ver.3」にはこう書きました。
「セフジニル(セフゾン)のバイオアベイラビリティーはたったの25%、セフポドキシム(バナン)は50%、セフチブテン(セフテム)はKucersには「分からない」(not been determined)と書いてありました。セフカペン(フロモックス)、セフテラム(トミロン)に至っては記載すらなし(抗菌薬サークル図ではバイオアベイラビリティー不明とあり)。セフジトレン(メイアクト)はなんと14%しかありません」
体に入らない抗菌薬、感染部位に届かない抗菌薬はぜったいに効きません。それでも三世代のセフェムが臨床的に問題じゃないかのような印象があるのは、それはほとんどのケースが抗菌薬なしで自然治癒するケースであり、三世代セフェム「ですら」患者がよくなってしまっているからです。
さて、治療効果もないが害にもならないと考えられがちな三世代セフェムですが、さにあらず。Clostridium difficileによる腸炎を起こしやすいことは以前から知られています。山本舜悟先生に教えてもらったのですが、小児においてはピボキシルの入っている抗菌薬では低カルニチン血症ー>低血糖を起こすそうで、決して無害ではないのです。ちなみにピボキシルはフロモックス、メイアクト、トミロン、そしてオラペネム(経口カルバペネム)などに入っており、PMDAから警告が出ています。
www.otology.gr.jp/notice/20120525_pivoxil.pdf
先日、そのオラペネムが「深爪ー>爪周囲炎」に処方され、全身に皮疹。かゆみー>数ヶ月に及ぶ不眠、不安、抑うつ症状を起こした患者さんを見ました。もちろん、抗菌薬に副作用があるからと言ってその存在そのものを否定してはいけません。命にかかわる感染症であれば皮疹も覚悟の上でガツンと使います。しかし、おそらくは局所の治療だけで治ったであろう爪周囲炎に対してなんで根拠がほとんどゼロの経口カルバペネムを使うんだろうと悲しくなりました。
「念のため」「もし何かあったら」という理由で抗菌薬を使う医者は多いですが、「念のため」「もし何かあったら」の論理は常に双方向性に働きます。「副作用が起きないように念のため」「もし副作用が起きたら」という言い方も同等に正しいのです。リスクは常に双方向的に見なければいけません。
点滴薬の三世代のセフェムは細菌性髄膜炎や急性喉頭蓋炎といった命にかかわる感染症に使う大事な武器です。そういう武器をムダに不要に垂れ流し、耐性菌を増やし、いざというときの効果を減じてしまっているのです。
僕の見たところ、経口三世代セフェムや経口カルバペネムはほとんど誤用されています。経口三世代セフェムが本当に本当に必要な患者は極めてまれです。ぼくらはもう、これらの抗菌薬と診療現場を切り離し、これらと決別し、そして患者の安全を守る必要があります。抗菌薬が必要ない患者にはフロモックスなどは出さない。抗菌薬が本当に必要な患者にはもっとましな抗菌薬を使う。そして、目の前の患者と、未来の患者を守るのです。
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