注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
梅毒は潰瘍を形成しHIV感染や伝播のリスクとなりうるが、さらにCCR5共受容体の発現量を増加させることで局所免疫を活性化し、HIV感染のリスクをより増加させる。このように梅毒とHIVは多くの点でお互いに影響を与えるため、梅毒とHIVの感染はしばしば同時にみられる。そのため新しくHIV感染と診断された人は梅毒の検査を受けるべきであり、逆に新しく梅毒と診断された人はHIVの検査を受けるべきである。ここでは、HIV感染者における梅毒の診断・治療について述べる。
【診断】
梅毒の診断は非トレポネーマ抗原による検査(RPR、VDRL、ガラス板法)とトレポネーマ抗原による検査(FTA-ABS、TPHA)を組み合わせて行われる。前者は通常、抗体価1:8以上で活動性ありと判断するが、梅毒感染直後(リアゲン抗体産生までの3~6週間)や第3期梅毒では偽陰性を、また膠原病、妊婦等では偽陽性を示すことがある。一方、後者はより感度、特異度に優れるが、一度陽性になれば生涯陽性となり、これのみで治療対象とはならない。
神経梅毒は第1期から第3期のどの時期にも起こりうる。診断は髄液中の細胞増加(白血球数5 /mm3以上)、蛋白の増加(45 mg/dl以上)、VDRL反応によって判断される。髄液VDRLは特異度が非常に高いが感度が低いため、感度の高い髄液FTA-ABSを併用するという考えもある。髄液検査は、血清反応が陽性で神経学的あるいは眼症状を有するすべての患者、治療失敗が疑われる晩期梅毒患者、未治療の晩期梅毒患者あるいは未治療期間が不明の梅毒患者に対してCDCにより推奨されている。またHIV感染患者では神経梅毒を再発する率が高く、特に非トレポネーマ検査の抗体価が32倍以上の場合、病期にかかわらず髄液検査を推奨する専門家もいる。
HIV感染者でも同様の方法で梅毒が診断されるが、HIV感染を併発した場合、複数の下疳、急速な神経梅毒への進行などHIV非感染者とは臨床症状が変化しうる。HIV感染者と非感染者の梅毒を区別する特異的な臨床症状はないが、HIV感染者では症候性の神経梅毒、特にぶどう膜炎の合併が多い。また、HIV感染者では血清学的検査も影響を受け、偽陰性や生物学的偽陽性が出やすいとされている。したがってHIV感染者の梅毒の診断にはこれらのことに注意すべきである。
HIV感染症自体によっても軽度の髄液細胞数増加と蛋白質濃度増加が起こるため、HIV感染者の神経梅毒の診断は評価が難しいが、非トレポネーマ検査の値やHIV感染症の進行度で神経梅毒の可能性が高まるという報告もある(RPR値1:32以上で6倍、CD4<350 /mm3で3倍、両方あれば18倍)。
【治療】
HIV感染者の梅毒の治療は、非感染者と同様にpenicillin G benzathinの筋注が有用である(日本では未承認のためamoxicillinを使用し、これにprobenecidを併用している)。入院患者では点滴薬のpenicillin Gも用いられる。特に神経梅毒、その中でもHIV感染を合併した神経梅毒では、経口薬やほかの薬では効果が不十分とされ、penicillin Gの点滴投与にて治療される。penicillinアレルギー患者ではtetracycline hydrochlorideまたはdoxycyclineで治療されるが、神経梅毒や妊婦では脱感作のうえpenicillinが用いられる。
治療に対する反応の評価については、定量的なVDRLまたはRPR抗体価によって決定すべきであり、HIV感染併発患者はより頻繁な血清検査が必要である。神経梅毒の治療効果判定には髄液中の細胞数が用いられる。血清学的抗体価の低下率はHIV感染者でかなり遅いようにみえるが、臨床的意義は明らかではない。
参考
・HARRISON’S PRINCIPLES OF INTERNAL MEDICINE 18th Edition
・Mandell, Douglas, and Bennett's PRINCIPLES AND PRACTICE OF INFECTIOUS DISEASES 7th Edition
・抗菌薬の考え方、使い方 ver. 3 岩田 健太郎 宮入 烈
・レジデントのための感染症診療マニュアル 第2版 青木 眞
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