注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
HIVと帯状疱疹の関係
【疫学】
帯状疱疹はHIV患者の10~20%に認められる。また、HIV患者では免疫が低下しているために健常者よりも若年で発症し、再燃を繰り返す。再燃を繰り返す帯状疱疹はHIV感染を疑うべき臨床所見である。この時、典型的にはCD4陽性T細胞数は200~500個/㎣となっている。
【臨床症状】
免疫正常患者では有痛性で限局性の水疱が1つのデルマトームに出現するだけだが、HIV患者では複数のデルマトームにわたって水疱が出現することが多く、症状も遷延する。また、帯状疱疹後神経痛も長期にわたり日常生活に影響を与えることもある。帯状疱疹後神経痛のリスクは加齢によって増加する。それに加え、内臓への播種によって重篤化しやすい。内臓播種には以下のものがある。
《眼帯状疱疹》
三叉神経の眼神経に帯状疱疹が及んだ場合がこの状態である。顔面の帯状疱疹に加え、鼻背部に水疱(Hutchinson’s sign)が認められた場合は眼帯状疱疹を強く疑う。また、出現する水疱が多くのデルマトームに波及しているだけでなく、眼内構造物に炎症が及んでブドウ膜炎、角膜瘢痕、急性網膜壊死などを来し、最悪の場合は永久失明に至る。急速進行性の網膜壊死や急性網膜炎はHIV患者の帯状疱疹における非常事態である上に、治療にもあまり反応性がないため失明に至りやすい。
《中枢神経系》
中枢神経系としては脳炎、髄膜炎などがある。主な症状としては運動失調、振戦、めまい、頭痛、嘔吐、傾眠などがあり、帯状疱疹出現から1,2週間後に現れる。また、眼帯状疱疹とともに出現することが多い。
【治療】
HIV患者の帯状疱疹は複数のデルマトームにわたる水疱や三叉神経領域への播種、中枢神経系への播種など重篤となる場合が多い。そのため、治療としてAcyclovirの静注を入院で出来る限り早期に行うことが望ましい。ただし、皮膚病変が一つのデルマトームに限局している場合などの軽症例では外来での経口薬物治療も可能である。一般的な治療期間は経口Acyclovirでは7-10日となっているが、症状が遷延する場合や静脈注射の場合は症状が改善するまで治療が継続される。
HIV患者では再燃を繰り返すことが多いが、Acyclovirをはじめとする抗ウイルス薬を予防として長期間投与することは推奨されていない。
【ワクチンによる予防】
VZVのワクチンは生ワクチンであるため、HIV患者ではウイルス播種のリスクがあり、ワクチンの安全性と効果はまだ証明されていない。そのため、ルーチンでワクチン接種を行うことは推奨されない。
【参考文献】
Harrison’s principles of internal medicine 18th Edition:p1557-58
Agency for Healthcare Research and Quality, “Recommendations for the management of herpes zoster”, 2007
Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases 7th Edition: p1716, 1867, 1875
UCSF Varicella-Zoster Virus and HIV (http://hivinsite.ucsf.edu/InSite?page=kb-05-03-01)
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