注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだけ寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際には必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jpまで
Mycoplasma肺炎について
【概要】
Mycoplasma pneumoniaeは自己増殖可能な最小の微生物で、感染例の3~10%が肺炎をきたす。Mycoplasma肺炎は非定型肺炎の代表疾患であり、幼児~学童、若年成人に発症することが多い(図1)。潜伏期間は2~3週間であり、家族内感染が多い。秋~冬にかけて流行する傾向があり、2011年は調査開始(1999年)以降で最多の報告数であった(図2)。発熱や全身倦怠感、咳嗽など初発症状は風邪と見分けがつきにくく診断が遅れることがあるが、年齢が若く、基礎疾患がない患者で、頑固な乾性咳嗽を見た場合はMycoplasma肺炎を疑うことが重要である。
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NIID 国立感染症研究所 ホームページより抜粋
【診断】
まずは一般採血、胸部X線を行うが、M.Pneumoniae感染に特異的な検査には以下のものが挙げられる。
・微粒子凝集(PA)法:主にIgM抗体を検出。ペア血清で4倍以上の上昇を示した場合の感度は83.3%、特異度は100%であり、単一血清で640倍以上の値を示した場合の感度は50.0%、特異度は99.3%である(PCR法での診断結果を標準とする)。比較的簡便に測定でき、多検体の処理が可能であることから、本邦では最も頻用され、確定診断(原則としてペア血清)に使用されているが、急性期の診断にはあまり役に立たない。
・補体結合(CF)法:古典的。IgG抗体の存在をより反映する。病初期に変化せず、疫学的調査に向くとされる。
・イムノカード(IC) 法:特異的IgM抗体を定性的に検出する簡易抗体検出キット。手技が簡便・迅速であり、迅速診断検査としては有用であるが、偽陽性が多く、また定性法であるため早期診断には注意を要する。
・寒冷凝集反応:非特異的IgM抗体を検出。感度50%前後であり、あまり用いられない。
・酵素免疫法(EIA):特異的IgM抗体、IgG抗体、IgA抗体を分別して検出。感度・特異度高く、欧米では標準法となっているが、国内では現在承認申請中である。
⇒以上は血清学的診断法であるが、抗体(IgM、IgG、IgA)の出現はいずれも発症の数日後であるため、早期診断は困難である。臨床的には症状、年齢、流行状況なども含めて総合的に診断を行う。
【治療】
M.Pneumoniaeは細胞壁を持たないため、βラクタム系薬剤ではなく、azithromycinやclarithromycinといったマクロライド系抗生剤やdoxycycline、fluoroquinoloneを用いる。2000年以降、マクロライド耐性を示すM.Pneumoniaeが出現・増加してきており、抗生剤の投与には十分注意する必要がある。
参考文献
レジデントのための感染症診療マニュアル第2版 青木眞著
感染症診療のエビデンス 青木眞監修 岩田健太郎、大曲貴夫、名郷直樹編集 文光堂
感度と特異度からひもとく感染症診療のDecision Making 細川直登編集 文光堂
32.Mansel JK, Rosenow EC 3rd, Smith TF, Martin JW Jr. Mycoplasma pneumoniae pneumonia. Chest 1989; 95:639.
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