注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだけ寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際には必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jpまで
HIVの治療を始めるタイミング
HIVの治療を始めるタイミングは、未だ多く議論されているが、早期に始めるメリットとしては、CD4陽性T細胞が高いうちから治療をした方が長期予後が良いという研究があることである。デメリットとしては、長期に渡る服薬から起こる問題が挙げられる。長期に渡る服薬によって、薬に対する耐性が早期に出来てしまうこと、将来の薬の選択の幅が狭まってしまうこと、未知の副作用が将来起こる可能性、服薬遵守が難しくなることなどが挙げられる。長期に渡る服薬遵守の困難さは問題であり、ウイルスが耐性化する大きな原因になる。
2012年6月現在のNIHの基準を以下に挙げるが、推奨の強さ、根拠の確かさについては次のようなのものである。
推奨の強度:A=強く勧める、B =中程度、C=個々の判断に任せる
根拠の強度:I=無作為化比較試験、 II =長期的な臨床転帰を観測している、適切に計画された非ランダム化試験もしくはコホート研究、III=専門家の意見
<大人の場合>
抗ウイルス療法(ART)は全てのHIV感染者に勧められているが、その推奨の度合は以下のように異なっている。CD4 が350 cells/mm3の場合 :AI、 CD4 が 350 to 500 cells/mm3 の場合:AII、 CD4 が >500 cells/mm3 の場合:BIIIである。
また、以下の条件に当て嵌まる患者には、 CD4の数に関係なくARTの開始が強く勧められる。妊婦:AI 、エイズ指標疾患の既往歴がある:AI、HIV関連腎症がある (HIVAN):AII、 HIVとB型肝炎ウイルス (HBV) の両方に感染している:AIIである。
※性的関係のあるパートナーがいる患者の場合、効果的なARTによってパートナーへの感染の予防ができる。従って、HIVをパートナーに感染させるリスクのある患者にはARTを行うべきである。
<子どもの場合>
近年、大人のARTのガイドラインは変わりつつあるが、子どものガイドラインも大人と相違点があるのか議論が必要である。
12ヶ月未満のすべての乳児に対して、ARTは臨床的、免疫学、ウイルス学的または症状に関係なく推奨されている。抗レトロウイルス薬に感受性のあるHIV既感染の5歳以上の子どもについて、症状が極めて少ないかまったくない場合に、ART開始の指標となるCD4陽性細胞の数は<350 cells/mm3 から<500 cells/mm3に閾値を上げている。CD4が<350 cells/mm3 の場合、治療の開始はとても強く勧められている(AI)が、 CD4陽性細胞が350–500 cells/mm3の子どもの場合、強い根拠があるわけではない。
免疫機能が比較的保たれている(1歳から5歳でCD4陽性細胞 >25%、もしくは 5歳以上でCD4 陽性細胞数>500 cells/mm3)子どもの治療は、症状が極めて少ないかまったくない場合、血漿中のHIV RNA が100,000 copies/mL以上あるならBIIで推奨され、 HIV RNA が100,000 copies/mL 未満ならばCIIIであり、ARTは任意である。
参考文献
http://www.aidsinfo.nih.gov/, HIV essentials p19、N Engl J Med 2006; 355:2283-2296、N Engl J Med 2011; 365:493-505
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