注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだけ寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際には必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jpまで
日本住血吸虫について
<概要>
住血吸虫症は血管内に寄生する住血吸虫によりおこる代表的な熱帯感染症である。日本住血吸虫は、アジアに分布している。過去、日本では甲府盆地、広島県片山地方、筑後川流域などに広く分布していた。現在、住血吸虫症としては世界で2億人以上の人がかかっており、毎年20万人以上の人が亡くなっていると推定されている。日本では限定された流行地に灌漑用水路をすべてコンクリート化することでミヤイリガイをほぼ撲滅することに成功し、1977年以降国内感染は見られなくなり1996年に正式に流行根絶が宣言された。
<生活環>
人への感染はセルカリアの正常皮膚への侵入によって成立する。セルカリアは中間宿主のミヤイリガイから遊出する。皮下に侵入すると次の発育段階であるシストソミュラに変化する。2〜4日以内に静脈やリンパ管を経由して移行し、最終的に肝実質に至る。成虫となり、移行して腸間膜静脈に至る。雌雄抱合したまま血管内を移動して末梢血管内で産卵する。虫卵は組織中を通り、腸管内もしくは尿道内に到達し、糞便もしくは尿と共に排泄されるものと、宿主の臓器内にとどまるか、門脈系を介して肝臓およびときに他の部位に運ばれるものがある。虫卵が肝臓に塞栓を形成した場合、周囲の組織を壊死させる。排出された虫卵は淡水中で孵化してミラシジウムを放出し,ミラシジウムはミヤイリガイに侵入する。そこで増殖した後、何千もの自由遊泳性のセルカリアが放出される。
<臨床症状>
感染初期にはセルカリアが皮膚を通過する際に、湿疹様皮膚病変がみられる。強い掻痒感を伴う湿疹が数日から2 週間程度持続する。主に感染後2~4か月で急性期症状が出現し、発熱、蕁麻疹、好酸球増多、水様便あるいは粘血便、全身倦怠感、体重減少、黄疸などの症状を生じる。この急性期症状を片山熱という。慢性期では、肝腫大が起こり、肝臓間質の増生、実質の萎縮をきたし肝硬変に移行する。その後、門脈血はうっ滞し腹水を生じ腹部は著しく膨満する。虫卵が血管内を移動し脳に定着するとてんかん発作、頭痛、運動麻痺、視力障害などの様々な脳神経症状を引き起こすことがある。
<診断>
確定診断は虫卵を検出することによる。急性期では集卵法で糞便から虫卵を検出による検便、または生検で組織中の虫卵や虫体の断端を確認できる。補助診断として血清を用いた抗体検査も有用であるが、住血吸虫症の場合、血中の特異抗体が長期間陽性で持続するので、感染既往の有無は判定できても駆虫の適応か否かの判断材料にはならないことが多い。日本では撲滅に成功しているため基本的に見ることはない。ただ、問診において東南アジアや中国などの流行地域への渡航歴と、そこでの水への暴露があり、強い痒みが生じた既往があり、発熱など急性期の症状をきたしている場合や、慢性期の肝症状をきたしている場合に、この疾患を疑う。
<治療>
検便や検尿で虫卵が確認された場合には駆虫薬の投与を行う。プラジカンテルを40 mg/kg/日で2日間投与することでほぼ完全な駆虫効果が得られる。リファンピシン服用患者には禁忌なので注意する。慢性病変には対症療法をおこなう。
<参考文献>
ハリソン内科学 第3版 メディカル サイエンス インターナショナル
寄生虫症薬物治療の手引き2010 改訂第7版 厚生科学研究費補助金政策創薬総合研究事業「輸入熱帯病・寄生虫症に対する稀少疾病治療薬を用いた最適な治療法による医療対応の確立に関する研究」班
CDC Parasites – Schistosomiasis Life Cycle http://www.cdc.gov/parasites/schistosomiasis/biology.html
Nature Reviews Microbiology 2, 12-13 (January 2004) L.Chitsulo, P. Loverde , D. Engels
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