注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだけ寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際には必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jpまで
日本におけるHIV患者の疫学的特徴
<世界のHIV患者の動向>
2010年の世界の総HIV陽性者数は推定3400万人で、2002年当時(推定2950万人)と比べる増加している。これは依然として多数の人がHIVに新たに感染していること、および、エイズよる死亡を減らす抗レトロウイルス治療大きく普及したことを反映している。とりわけ近年は治療拡大の影響が大きい。HIVの新規感染者数は減少傾向にあり、世界のHIV陽性者人口の68%を占めているサハラ以南のアフリカでは、その傾向がとりわけ顕著である。2010年の年間新規感染者数は世界で推定270万人であり、2001年(推定310万人)と比べると13%、新規感染のピークだった1997年(推定340万人)と比べると21%減少している。(①Progress report 2011: Global HIV/AIDS response)
<日本のHIV患者の動向>
日本におけるHIVの新規感染者数は、最近5年間で5360件の報告がありHIV感染者数の累計の39.1%を占めており、2000年と比べると2.3倍の増加を認める(図1)。2011年に報告された新規HIV患者を感染経路別にみると、同性間の性的接触が68.4%(722件のうち男性同性間の性的接触は686件)、異性間の性的接触が19.5%、静注薬物使用によるものが0.4%、その他・不明が11.7%となっている。特に増加が顕著である男性同性間の性的接触の占める割合と数は2000年と比べて増加している(2000年-2010年、47%,217件-68%,686件)(図2)(②API-NET エイズ予防情報ネット)。アジア諸国においてもMSM(Man who have sex with man)におけるHIVの発症が増加しているが、その割合は8%-32%である(①)。このことを考慮にいれると、日本におけるMSMの増加は特徴的であると考える。また、日本と同じくHIV感染経路として男性同性間の性的接触が61%と高い割合を示すアメリカも、2000年と比べると、その割合と数は増加(2000-2010、42%,10,519件-61%,29,328件)(③Centers for Disease Control and Prevention)しており、日本と同様の特徴を有する。
<対策案>
(1)コンドームを使用しない肛門性交におけるHIV感染のriskを、教育の場(小学校、中学校、高校)で教えるべきであると考える。これは性行為年齢の低下を考えると妥当であると思う。
(2) すべてのMSMに、少なくとも年に一度HIVの検査を受けること、また性的に活発なMSMには、その間隔を3〜6ヶ月おきにすること(③)(④up to date: patient information ;Testing for HIV <Beyond the Basics>)
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(3)MSMのHIV感染に暴露する前の予防として、テノホビル/エムトリシタビンの投与を行う(Grant RM, et al. 2010)。
<参考文献>
① Progress report 2011: Global HIV/AIDS response
http://www.who.int/hiv/pub/progress_report2011/en/index.html
② API-NET エイズ予防情報ネットhttp://api-net.jfap.or.jp/status/2011/11nenpo/h23gaiyo.pdf
③ Centers for Disease Control and Prevention
http://www.cdc.gov/hiv/topics/surveillance/resources/reports/index.htm
④ John G Bartlett, et al. up to date: patient information ;Testing for HIV <Beyond the Basics>
⑤ Grant RM, Lama JR, Anderson PL, et al. Pre-exposure chemoprophylaxis for HIV prevention in men who have sex with men.N engl J Med 2010;363:2587
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