今年は長い。忙しい年はたいていさっさと過ぎ去ってしまうのだが、今年は忙しいくせに妙に長い。1月、2月の出来事が思い出せない。たくさんのことが起きすぎる。よいことも、悪いことも。長い、長い。
手元に沢木耕太郎の「バーボン・ストリート」がある。内容を引用する。長いので著作権的に問題なのかもしれないが、今は知ったことではない。沢木さん、男だったら見逃してください。
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初めてロスアンゼルスに行った時の旅で、私はニューオリンズにも寄った。そして、賑やかなフレンチ・クオーターで何度かデキシーランド・ジャズを聞いた。そのフレンチ・クオーターでも最も繁華な通りであるバーボン・ストリートの、いかにも安っぽそうな店で聞いた陽気な数曲の中に、おそろしく長い題名の曲があった。
I'll Be Glad When You're Dead, You Rascal You!
日本に帰って調べてみると、驚いたことにそれは葬送の曲だった。レコードで聞き直してみたが、それはニューオリンズで聞いたものよりさらに陽気に演奏されていた。ジャケットによれば、葬送が終わり、墓場から帰ってくるときの行進用にアレンジされているということだった。題名は、訳せば次のようになる。
お前が死んじまって俺はうれしいぜ、この馬鹿野郎が!
ここには強い語調の底にたたえられた深い悲しみがある。うれしいぜという言葉には、天国に行かれてという意味が含まれているらしいが、むしろ反語としての意味の方が大きいように思われる。男が男を葬送するときの惜別の辞として、恐らくこれ以上のものはない。
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なぜか、談志家元の落語を今週は聞いていた。「やかん」「二階ぞめき」そして「芝浜」。理由はよく分からない。あとからはナントでも理由はつけられよう。今はYouTubeで馬生の「百年目」を聞いていた。発熱した娘がようやく寝ついて、やれやれと聞いていた。そしたらこの訃報である。今年は訃報が多すぎる。心が宙に舞い、落ちるところが分からない。
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