スポーツネタその2.血液型うらないは意味ないけど、病気とは意外に関係あります。
「あるボールゲームで相手チームにまで流行したことのある下痢性感染症の特徴」
Norovirus属のNorwalk virusは、アメリカンフットボールの試合中に相手チームに感染したことが報告されている。*1
・Norovirus属は市中でみられる最も一般的な軽度胃腸炎の起因ウイルス属であり、感染は世界規模で、一般的にみられている。胃腸炎の起因ウイルスとしては、成人では頻度が1番目に高い。(小児ではロタウイルスに次ぎ2番目である。)
・温暖な気候では冬季季節性であるが、熱帯地方では年間を通してみられ、アウトブレイクを引き起こす。
・散発性の下痢の原因としても重要であることが分かってきている。胃腸炎で入院した患者の5-31%で、また胃腸炎で外来受診した患者の5-36%でノロウイルスが検出されており*9、成人の下痢症の一般的な原因であることが分かる。
・潜伏期間は一般に24から48時間と短く、急性に発症する。主な症状は下痢と嘔吐であるが、全身症状(筋痛、倦怠感、頭痛)もみられ、半数の患者では、発熱(38.3-38.9℃)がみられる。症状は48から72時間で回復するが、回復後も2週間程度ウイルスの排出は続く。
・ヒトに感染を起こすノロウイルスの宿主はヒトのみと考えられている。細胞培養方法は見つかっていない。診断にはRT-PCR、realtimeRT-PCRが利用可能である。
Norovirus属には、とりわけ特徴的な点が2つある。
特徴1.感染力の強さ
・Norovirus属の最大の特徴は、その感染力の強さである。Norovirus属は容易に糞口感染によってヒト-ヒト感染を起こす。さらに、嘔吐物のエアロゾルによる空気感染や、汚染された食物や水を介しての感染も起こす。また氷点下から60℃まで活性を保ち、環境表面からも感染する。*9
・極めて少量のウイルス量(18-1000粒子)で伝染する。*2
・一方、糞便からのウイルス排泄量は極めて多量になり得る(7.7×1010ウイルス粒子/g糞便まで。)*3ここから、outbreakを起こしやすい理由の一つが推察できる。
・ノロウイルス株は多様性に富んでいること、ノロウイルスゲノムは抗原の変化を起こすような変異を容易に起こすこと、ヒトはノロウイルスに対して一過性の免疫しか獲得できないことから、生涯にわたって繰り返し感染し得る。
・二次発病率secondary attack rateが高く(患者の家族やclose contactを持った者では30%以上)*9、outbreakを引き起こす。なお米国での非細菌性胃腸炎のoutbreakの90%以上がノロウイルスによるものである。
特徴2.血液型がウイルス感受性に関与している
・norovirus属は腸管上皮細胞が発現している組織血液型抗原をレセプターとして利用すると考えられている。*11そのため暴露されたものの血液型により、ウイルスに対する感受性が異なる。
・ウイルス株によって、選択的に結合する血液型抗原は異なる:
norovirus属のgenogroup I(Norwalk virusなど)は、血液型A型及びO型抗原(H抗原)に選択的に結合する。genogroupⅡは、血液型A型及びB型に選択的に結合する。*4
・genogroupIは特に強く血液型と関連しており、O型が最も感染しやすく、非分泌型の者、及び血液型B型の者は抵抗性があることが示されている。*5*6
・一方、genogroupⅡの感染は血液型と関係なく感染したという結果のスタディもあり、genogroupⅡは全ての分泌型の者に感染できる可能性もある。*7
参考文献
*1 “Transmission of Norwalk virus during football game.” Becker KM et al.N Engl J Med. 2000 Oct 26;343(17):1223-7.
*2 “Norwalk virus: how infectious is it?” Teunis PF et al. J Med Virol. 2008;80(8):1468.
*3 “Fecal viral load and norovirus-associated gastroenteritis” Chan MC, et al. Emerg Infect Dis. 2006;12(8):1278.
*4 “Noroviruses bind to human ABO, Lewis, and secretor histo-blood group antigens: identification of 4 distinct strain-specific patterns” .Huang P,et al.J Infect Dis. 2003;188(1):19.
*5“Norwalk virus infection and disease is associated with ABO histo-blood group type.”Hutson AM,et al. Infect Dis. 2002;185(9):1335.
*6“Human susceptibility and resistance to Norwalk virus infection.”Lindesmith L,et al. Nat Med. 2003;9(5):548.
*7“No association between histo-blood group antigens and susceptibility to clinical infections with genogroup II norovirus.”Halperin T,et al.J Infect Dis. 2008;197(1):63.
*9“Norovirus gastroenteritis” Roger I. Glass et al.N Engl J Med.2009;361:1776-85
*10 Harrison’s principles of internal medicine 17th ed. “Viral gastroenteritis”
*11 Up To Date “Epidemiology, clinical manifestations, and diagnosis of noroviruses, astroviruses and sapoviruses”
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。