今週はワールドカップネタでレポートである。お題はこちら。よくできてます。
感染症内科レポート
ある種のスポーツでの感染が知られているスピロヘータ感染症について
レプトスピラ症 leptospirosis は温帯・熱帯気候の場所で淡水と接触するスポーツでの感染が知られている。具体的にはカヤック・カヌー・トライアスロン・ラフティングなどがあり、例えば1998年イリノイ州で行われたトライアスロンに参加した834名のうち98名の選手が、水泳の際の湖水への曝露が原因でレプトスピラ症に集団感染したという報告がある。*1 日本に目を向けると、国立感染症研究所・感染症情報センター(IDSC)によれば2003年11月から2007年11月までの調査で19の都府県から国内および輸入例を含め合計93例の患者が届出られている。*2 国内例87例のうち、40例が沖縄県での感染が推定されている。また、IDSCでは東北地方太平洋沖地震による衛生状態の悪化によりネズミの増殖や井戸水の汚染による感染の危険性が増加するとして警鐘を鳴らしている。
レプトスピラ症はLeptospira interrogansによる人畜共通感染症である。これは1細胞あたり18回以上きつくらせん状に巻かれたスピロヘータで、暗視野顕微鏡で最もよく見える。200種類以上の血清型があり、ヒト宿主へ切り傷やびらん、結膜や粘膜、長く水に浸って柔らかくなった皮膚を通じて侵入する。その後リンパ系に広がり、血液に入り全身に播種する。ヒト以外でネズミなどのげっ歯類をはじめ、両生類や爬虫類、ペットの犬や家畜などにも感染しうる。ヒトで感染するリスクがあるのは上記の野外活動の他に、ネズミやイヌの尿で汚染された水や土に曝露する事で感染することが多い。そのため猟師や酪農家、獣医、軍人、下水道業者などはリスクが高い。主にカリブ諸島や中南米で、洪水やハリケーン後などの感染が多く、ハワイでは年間10万人あたり100例以上報告がある。
潜伏期は通常2~26日間、平均10日ほどであり、重症度は様々で曝露の程度や感染した血清型によると考えられる。典型的には菌血症期と免疫反応期に分けられるが、実際には2相性を経験するのは半数未満である。90%を超える症例は自然治癒するが、少数の割合の患者はWeil’s syndromeという重症な病気を引き起こす。これは急性期の後に起こりうるもので、出血、黄疸、腎不全や出血性肺炎を引き起こす。ALPやD-Bil、CPKの上昇を見たらWeil’s syndromeは常に考えなければいけない。重症レプトシエラ症の死亡率は5~40 %と言われている。病気の発症は通常突然で、75 %以上の患者で発熱、頭痛、そして筋痛が見られる。25 %から35 %の患者で空咳がみられ、半数で嘔気や下痢が見られる。*3 免疫反応期以降では、結膜炎が比較的特異的で重要であり、他にリンパ節腫脹、頸部硬直、眼球部後痛、肝脾腫、そして免疫反応によるものと思われる無菌性髄膜炎も見られる。*4
診断は症状から見ただけでは困難である。問診により疑うことが何より重要である。培養にはFletcher培地などの特別な培養方法が必要であり、感度も低い。血清学的な検査が最も有用とされている。ゴールドスタンダードは顕微鏡的凝集試験(MAT)とされているが、CDC委託検査をオーダーする必要性が問題である。MATは2週間で陽性化、3~4週間まで上昇し、4倍以上の上昇で確定診断と定義されている。またより迅速な診断法としてIgM抗体によるELISA法は100 %近い感度と93~98 %の特異度が報告されている。*5*6
治療については、軽度から中程度の症例では、経口のdoxycylineを100mg 1日2回が勧められる。これはレプトスピラ症と紛らわしいリケッチア感染症にも効果があるからである。重症例ではpenicillin 150万単位を6時間毎か、doxycycline 100 mgを1日2回か、ceftriaxone 1 gを24時間毎かcefotaxime 1 gを6時間毎に静注する。また予防として流行地での摂触が予想される場合、ドキシサイクリン200mg 1日1回による投与が有効であることが示されている。*7
※参考文献
*1 Morgan J, Bornstein SL, Karpati AM, et al. Outbreak of leptospirosis among triathlon participants and community residents in Springfield, Illinois, 1998. Clin Infect Dis 2002; 34:1593
*2 病原微生物検出情報(IASR)2008年1月号、レプトスピラ症 2003.11~2007.11
*3 Katz AR, Ansdell VE, Effler PV, et al. Assessment of the clinical presentation and treatment of 353 cases of laboratory-confirmed leptospirosis in Hawaii, 1974-1998. Clin Infect Dis 2001; 33:1834.
*4 Berman, SJ, Tsai, C, Holmes, K, et al. Sporadic anicteric leptospirosis in South Vietnam. Ann Intern Med, 1973; 79:167.
*5 Winslow WE, Merry DJ, Pirc ML, Devine PL. Evaluation of a commercial enzyme-linked immunosorbent assay for detection of immunoglobulin M antibody in diagnosis of human leptospiral infection. J Clin Microbiol 1997; 35:1938.
*6 Levett PN, Whittington CU. Evaluation of the indirect hemagglutination assay for diagnosis of acute leptospirosis. J Clin Microbiol 1998; 36:11.
*7 Takafuji ET, Kirkpatrick JW, Miller RN, et al. An efficacy trial of doxycycline chemoprophylaxis against leptospirosis. N Engl J Med 1984; 310:497.
・Harrison's Principles of Internal Medicine, 17th Edition
体力ってのと、易感染性ってパラレルでないんですね。トライアスロンやるような人なら、けちらしそうなのに。
投稿情報: Boo Bam | 2011/07/22 06:44