ようやくって言うより「翻訳」になってるけど、経験を積んだらもっとできるようになるでしょ。2年目なら、これくらいで上出来と思う。髄膜炎は減らせる病気だ。
“Bacterial Meningitis in the United States, 1998–2007 ” 要約
N Engl J Med 2011; 364:2016-2025May 26, 2011
研修医 井上紀彦
[背景]
1970~1980年台には、細菌性髄膜炎はHaemophilus influenza、Streptococcus pneumoniae、Neisseria meningitides、group B streptococcus (GBS)、Listeria monocytogenesの5種の菌が原因菌の80%を占めていた。その後、H.influenza type b (Hib)の結合ワクチンが1990年台早期に導入された時にアメリカでは細菌性髄膜炎の発生率が55%低下した。さらに近年の肺炎球菌結合型ワクチンや、妊婦に対するB群溶連菌(GBS)の広範なスクリーニングが細菌性髄膜炎の疫学を変化させている。本研究ではEmerging Infections Programs (EIP) Networkのデータを用いて1998~2007年の細菌性髄膜炎の発生トレンド及び、将来介入した際のベースラインを提供する目的で2003~2007年の疫学について記述した。
[方法]
EIP参加機関の細菌性髄膜炎に関する発生トレンドのデータを用いた。1998~2007年のActive Bacterial Core Surveillance (ABCs)に登録されているHib、S.pneumoniae、N.meningitidis、GBSの感染データ及び、FoodNetに登録されているL.monocytogenesの感染データを用い、計8つの地域で約1738万人(全米人口の6.4%)を解析した。細菌性髄膜炎の定義は、ABCsのデータにおいては調査地域の住民における髄液やその他の無菌的部位に前述の菌種が存在し、臨床的に髄膜炎と関連づけられた症例とした。FoodNetのデータでは髄液からL.monocytogenesが検出された症例とした。また肺炎球菌、GBS、髄膜炎菌は血清型からワクチン型と非ワクチン型に分類して解析を行った。統計解析は年齢、人種、菌別に分け、線形的なトレンド解析にはχ二乗検定、年単位に及ぶ中央値の解析にはWilcoxonの順位和検定を行った。また、我々は患者の既知のアウトカムデータのみから致死率を計算した。有意差はP値0.05未満とした。
[結果]
1998~2007年にかけて、H. aemophilus influenza、S. pneumoniae、N. meningitides、group B streptococcus (GBS)、L. monocytogenesの5種による細菌性髄膜炎は31%減少していた。1998~1999年は発生率2.00件/10万人、患者年齢の中央値30.3歳であり、2006~2007年は発生率1.38件/10万人、患者年齢の中央値41.9歳であった。致死率の有意差は無かった。調査期間の全ての年においては、2ヶ月未満の患者集団と黒人患者集団で発生が最も多かった(Table 1)。S.pneumoniaeによる細菌性髄膜炎は1998~1999年と2006~2007年で比較すると26%減少しており、発生率は1.09件/10万から0.81件/10万へと減少していた(Table 2)。また血清群別の発生ではPCV7型では92%減少していたが、非PCV7型では61%増加していた。1998~2007年の全年齢の集団では、N. meningitidis髄膜炎の発生率は58%減少、H. influenzae髄膜炎は全調査期間で35%減少、L. monocytogenesは-46%減少していた。GBSによるものは調査期間全体で有意な変化は無く、妊婦に対する全国的なGBSスクリーニング後も有意な変化は無かった。
また、2003~2007年の調査では、生後2ヶ月未満の集団ではGBSが原因菌として最多であり、その他の小児年齢層ではS.pneumoniaeが最多であった(Fig. 1)。また小児における致死率は6.9%で、その10%近くが易感染状態であった。成人ではS.pneumoniaeが原因菌として最多であり(Fig. 1B)、全成人における致死率は16.4%、また年齢に比例して有意に(P<0.001)増加していた。血清群別ではPCV7型が16.0%、PCV13型が41.6%であり、PCV7型での致死率が高かった(25.9%対16.2%、P = 0.02)。N. meningitidisでは18~34歳では血清群BとCが主要であり(それぞれ34.4%、45.9%)、35歳以上では血清群 BとYが最も多かった(両群とも34.0%)。GBSでは血清群IA 37.2%、血清群V 25.6%であった。H. influenzaeでは73.8%が血清型不明、e型 とf型が共に11.5%であり、致死率はタイプ特定可能な群で高かった(18.8%対2.2%、P = 0.02)。
[考察]
最近10年で上述してきた5種の細菌による髄膜炎の発生数は減少しており、特にS. pneumoniaeの減少の割合が大きい。小児の細菌性髄膜炎は減少し、発生年齢の中央値も上昇している。しかし致死率は肺炎球菌性髄膜炎で僅かに減少しているのみで、致死率に有意な減少はなかった。肺炎球菌性髄膜炎の減少はPCV7が寄与していると考えられた。
細菌性髄膜炎のリスクが最も高い生後2ヶ月未満の集団で細菌性髄膜炎の発生率は減少していなかったが、L. cytogenesによる髄膜炎は減少していた。L. monocytogenesによる細菌性髄膜炎は汚染食物からの感染が多く、妊婦に対する教育の効果があったと推測された。
成人集団では全年齢で細菌性髄膜炎の発生が減少していた。現在の子供たちは新規に認可されたPCV13を接種されており、将来的に成人の細菌性髄膜炎の率が減少するかもしれない。しかし髄膜炎のリスクファクターであるHIVが全米で減少する徴候は無く、成人でもPCV13を使用しないと髄膜炎全体の発生率減少は困難かもしれない。
また、今回の研究が過小評価した結果である可能性はありえる。理由としては、EIPのデータは培養で同定できた患者のみでPCR検査などで診断された人は含まない事、今回のデータが5種の菌しか対象としていない事、また細菌性髄膜炎の症例がルーチンで集められてデータベース化されたものでは無く、実際にあった症例数の40%程度であろう事が挙げられる。1998~2007年に細菌性髄膜炎の起因菌の順位はほとんど変化無く、現在の細菌性髄膜炎治療ガイドラインが治療対象とする起因菌は適正である事が、この研究で示唆された。しかし新生児と高齢者の細菌性髄膜炎は未だ大きな問題であり、介入が必要と考えられた。GBSワクチンと髄膜炎菌に対する新しいワクチンはまだ開発早期の段階だが、これらが小児の細菌性髄膜炎を減少させる可能性がある。しかしPCV13の成人への適応拡大や、現在開発中のGBSやN. meningitidisに対する新しいワクチンでも細菌性髄膜炎の多くの原因をカバーしておらず、超低年齢層や超高年齢層の髄膜炎の負担を減らすためには異なる方法が求められるであろう。
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