ある雑誌に頼まれて、書評を書きました。これは良い本です。
明日から臨床大好きなあなたも、臨床研究したくなる。
神戸大学 岩田健太郎
本稿は名郷直樹先生の「臨床研究のABC」の書評である。本書は素晴らしい。どのくらい素晴らしいかというと、僕は読了後、無性に臨床研究をやりたい情熱に駆り立てられて、今メタ分析をやっている。そのくらい素晴らしい。
メタ分析のためにある薬に関する論文を検索する。医中誌WEBで検索する。引っかかってくる論文の大多数が動物実験と症例報告である。症例報告のほとんどが「○○が××に著効した一例」である。成功体験、武勇伝である。しかし、成功体験をいくら積み上げてもメタ分析は出来ない。一例報告なら「失敗例」のほうが何百倍も価値が高い。勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなしなのだが、我々の領域は不思議な武勇伝に満ちている。必要なのは、明日からのプラクティスに役立つ「臨床研究」である。武勇伝ではない。本書の言う「耐震偽装論文」(本書7ページ)でもない。
名郷先生はEBM(evidence based medicine)の大家だが、EBMには5つのステップがある。最初のステップは疑問を持つこと(問題の定式化)。疑問を持つこととは、分からないことに自覚的であることである。しかし、我々はしばしば「分かったつもり」になってしまい、日々の診療を流してしまう。
丁寧に内省すると、臨床現場は「分からないこと」に満ちている。「信じていた常識」が意外に「根拠のない神話」だったりする。もちろん、分かっていないからといって診療止めるわけにはいかない。幕が開いたらショーは続けなければならないのだ。分かっていないことに自覚的であり、そしてだましだまし診療をする。「俺は自分を騙し、患者もごまかして、いまこのよく分からない薬を処方している」という「騙している自覚」が大事である。だましだましの自分に嫌気がさしたら、そこが研究の萌芽である。これが順番である。臨床家にとって研究は結果であって目的ではない。
だから、通俗的な意味での「僕は臨床が好きだから研究はやらないよ」ではないのである。臨床が好きで好きでしょうがないから、その結果研究するしかなくなるのである。
あと10年経ったら、医中誌を検索しても動物実験と武勇伝ばかり、、、でない日本になっているよう願っている。本書が、その一助となることは間違いない。
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