既存のワクチンを最大限に活用することが肝心です。効くと分かっているワクチンが全然接種されていない状態で、臨床試験すらまだ不十分な新型のワクチン(だけ)にすがってはいけないからです。
季節性インフルエンザワクチンの重要性についてはけっこう議論されていますが、圧倒的に足りないのが肺炎球菌ワクチンです。65歳以上のすべての方、および免疫抑制、基礎疾患のある方に推奨されているワクチンで5年に1回打ちます。米国では65歳以上の住民の70%近くがすでに肺炎球菌ワクチンを接種しています。先日視察した香港では、65歳以上の住民すべて肺炎球菌ワクチン無料で夏の間に積極的に接種していました。香港はSARS以来感染症対策にはかなり力を入れていて、日本よりもずっと進んでいます。
ところが、日本では65歳以上の5%弱しか接種しておりません。接種対象で未接種の方が何千万人といるのです。任意接種で自己負担なのに加え、再接種が「禁忌」という奇妙な添付文書があるためです(このような添付文書の記載があるのは世界で日本だけです)。
我が国で肺炎球菌ワクチンを販売している萬有製薬によると、昨年1年間の肺炎球菌ワクチン接種数が27万、今年がこれまで15万で、年間60万の接種予定だそうです。現在国内備蓄が45万、米国のそれが2000万なのを考えると彼我の意識の差は明らかです。
新型インフルエンザは10代の病気と喧伝されてきましたが、実際に死亡している人のほとんどは40歳以上です。すでに国内でも透析患者、高齢者が死亡しました。基礎疾患のあるかれらこそ新型インフルのワクチン、そして既存のワクチンで守らなければなりません。日本透析医会、日本透析医学会のガイドラインにも透析患者に対する肺炎球菌ワクチンの接種が明文化されています。しかし、現在これは全額自費負担なのです。透析患者さんは肺炎球菌ワクチンを打ちましょう、というメディアからの推奨は(マスクや手洗いと異なり)聞いたことがありません。どうしてなのでしょう。
また、冬に多い高齢者の肺炎入院を減らせば、その分ベッドが空きます。肺炎球菌ワクチンは実のところ、肺炎予防としてはあまりよいワクチンではありませんが、ICU入院数などを減らすことができると言われています(Arch Intern Med. 2007 Oct 8;167(18):1938)。新型インフルエンザ対策として病床確保があり、兵庫県でもやれ病棟を建てるの病室を建てるのと言う議論がありますが、新しい箱を作っても医療者がいないので意味がありません。既存の病気を減らすのが、一番手っ取り早い「病床を作る」方法です。そして最大の病気の予防策は、予防接種なのは歴史が教えるところなのです。
ぜひ、国のレベル(政治のレベル)で肺炎球菌ワクチン接種の広報、金銭的な助成、そして「再接種禁止」の添付文書の改訂を進めていただきたいと思います。再接種禁止はずいぶん前から僕たちも要望してきましたが、PMDAなどからの事務的な議論だといろいろ難癖をつけられ、時間がかかって仕方がありません。
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