『診療所における感染対策』セミナー@福井(2008年7月12日予定)のまとめ
私は普段講演の時、ハンドアウトをお渡ししません。理由は以下の通りです。
1.エコのため。ハンドアウトは紙ゴミが増え、また多くの方は(必ずしも全てのかたではありませんが)二度とハンドアウトを目にすることはありません。
2.講演中は会場のみなさんとアイコンタクトを取り、良好なコミュニケーションを取りたいと願っています。ハンドアウトがあるとどうしても目線が下を向いてしまうように私には思えるのです。
3.ハンドアウトを渡してしまうと先の展開が読めてしまう。
4.3のために、ギャグがすべりやすい。
5.私の使っているプレゼンソフト(Keynote)ではハンドアウトが作りにくい。
ギャグがすべるのは、単に面白くないからだ、という話もありますが、、、、
とはいえ、「ハンドアウトがほしい」「ハンドアウトがないのはけしからん」「かもすぞ」とおっしゃる方もおいでです。そこで、ブログ上で講演の要旨を公開してこれに代えることにしました。講演をご覧になった方もそうでない方も、どうかご活用ください。
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診療所における感染症
・感染症の持つイメージとは?
・うつる、みえない、こわいなど
・イメージを脱し、実態を知るところから始めよう。
結核
・ボッティチェッリのビーナスの誕生。モデルは結核患者だった。やせて肌が白く、頬を赤く染め、目の周りがくぼんで大きく見える。
・結核は今でも多い。日本でも減少傾向だがその減少には歯止めがかかりつつある。先進国で比べると日本はまだまだ結核の多い国。
・ツ反の判定は要注意。基本的には硬結10mm以上で陽性。強い曝露があったり免疫抑制があれば5mm以上。ブースター効果を理解する。BCGはワクチンの名前。幼児期に1回だけ接種。QFTは健康な人の潜伏結核診断に有用。BCG関係なし。「疾患の」診断に役に立つかは、微妙。
・結核予防法は2005年に改定され、これは後に感染症法に取り込まれた。
・予防接種の簡素化
・再接種の廃止(2003年から前倒し実施)
・乳幼児期接種の強化
・生後3−6ヶ月までに
・事前にツ反はやらない
・潜伏感染の治療(化学予防)
・29歳以下に適応
・のちに、それ以外にも適応は広がる
・INHは9ヶ月。6ヶ月にあらず
・健康診断の効率化
・入学時のツ反廃止
・問診に基づいて健診
・検診をリスクを絞ってターゲット化
・定期外検診を強制的に
抗生物質とモラルハザードの問題
・46歳の男性。3日続く微熱、鼻水、鼻づまり、くしゃみで来院。診察上、鼻粘膜の肥厚以外特に所見なし。選択すべき抗菌薬は?
・抗菌薬は原則出さない
・例外的に必要なケースは?
・例外に引っ張られて、一般原則を捨ててはいけない
・例外を無視してもいけない
・感染症診療は、バランスが大事
使わない抗菌薬は
耐性を作らない
風邪を制する者、
気道感染症を制す
・3歳の女児。耳が痛いと来院。左鼓膜の発赤、水が溜まっている。微熱あり。全身状態良好。選択すべき抗菌薬は?
・オランダでは1990年から抗菌薬を原則として使用せず
・オランダでの耐性肺炎球菌の検出率は1998年で3%
・米国ではこれまで抗菌薬の投与を基本
・2004年の米国小児科学会のガイドラインでは抗菌薬の使用を制限する方針を初めて認めた
・基本方針 48〜72時間は対症療法のみによる経過観察
・耳漏があるとき 7日間は抗菌薬を投与せず,外耳道の洗浄や清拭などの処置のみで経過観察
・耳痛があるとき 鎮痛薬としてアセトアミノフェンの10〜15mg/kg/回の投与とする。2歳以上ではイブプロフェンの5mg/kg/回の投与も
・熱があるとき 急性中耳炎以外の重症細菌感染症の合併を常に考慮
・抗菌薬療法 経口抗菌薬の第一選択はアモキシシリン(以下,AMPC)とし,60mg/kg/日の5日間投与とする。抗菌薬が無効なとき 耳鼻科専門医と連携
使わない抗菌薬は
耐性を作らない
抗菌薬は患者の
利益のためにある
ばいきんを殺すこと
そのものが目的ではない
・40歳の女性。4日間の微熱、頭痛で来院。右のほほを押すと圧痛。鼻腔は腫れている。選択すべき抗菌薬は?
・大部分はウイルスが原因であり,膿性鼻汁がみられても10〜14日間は抗菌薬を使用しない。
・下記の条件の1つを満たすとき急性細菌性副鼻腔炎と診断し,抗菌薬投与を考慮する。
症状や所見が10〜14日以上軽快することなく持続した場合(10day-mark)
顔面の腫脹や疼痛が発現した場合
上気道炎の経過中に高熱を伴って症状や所見が増悪する場合
・抗菌薬を出すのなら、やはり、アモキシシリンです。
・増量した60〜90mg/kgではpenicillin-intermediate Streptococcus pneumoniae(PISP)や一部のpenicillin-resistant Streptococcus pneumoniae(PRSP)にも対応できる
使わない抗菌薬は
耐性を作らない
・20歳の男性。一昨日から咳と高熱。診察上有意な所見なし。レントゲン正常。血液検査では白血球とCRP軽度高値。2選択すべき抗菌薬は?
・大多数の急性気管支炎は、抗生物質を必要としない。
・マクロライドを塩胡椒代わりに使わない!
・マクロライドにご用心
・A群溶連菌の多くはマクロライド耐性
・急性咽頭炎には使いにくい!
・肺炎球菌の大多数にはマクロライド耐性
・肺炎に単独使用はNO NO
・マイコプラズマにまで耐性菌が。こどもはどうやって治療するの?
・18歳の女学生。5週間続く咳
選択すべき抗菌薬は?
・慢性の咳は原因様々。まずは原因検索を
・抗菌薬で治るものは、むしろまれ
Cough variant asthma(抗菌薬不要)
上気道炎ののこりかす(抗菌薬不要)
Postnasal drip(抗菌薬不要)
ACEI(抗菌薬不要)
喫煙(抗菌薬不要)
百日咳(これは、抗菌薬で治療することも)
肺ガン、COPDなどなど(まずは診断)
必ず、結核は除外する事
インフルエンザ
・飛沫感染
・ものや手などの接触でも
・手洗いの重要性
・待合室で流行らせてはいけない
・タイプA, B, Cがある。このうち疾患を起こすのはAとB
・現行のワクチンは、2種類のAと1つのB
・Aには複数のH抗原とN抗原
・Antigenic shift, antigenic drift 大流行の原因に
・BにはHとNがひとつずつ。Antigenic driftは起きる
・タミフルの問題点
症状を1日程度減らす役割
他の抗菌薬使用は減
耐性の問題
重症化を減らす訳ではない
鳥インフルエンザ用に備蓄が必要か
・ The UK National Institute for Clinical Excellence (NICE) の推奨
アマンタジンは使わない
リスクのない成人、小児には使わない
発症48時間以内にのみ、用いる
postexposure prophylaxis を流行時に(特にワクチン使っていない場合)
・インフルエンザワクチンを活用しよう。
原則としては1回投与でいい
初回のみ、1か月ごとに2回
ただし、13歳以下は2回、とうオプションもある
6か月以上が対象
・ワクチンの対象は?
65歳以上の高齢者
老人ホームなどの施設居住者
慢性呼吸器疾患、心疾患、腎疾患
糖尿病
免疫抑制
医療従事者
医師や看護師だけではない
長期アスピリン使用者(例、川崎病患者)
その他希望のあるもの
efficacy
見積もられたefficacyは77%
小児で80%
高齢者でおよそ50%
effectiveness
高齢者で、
インフルエンザ様症状は35%減る
肺炎などによる入院は47%
死亡率は50%
市中肺炎
・まずは重症度分類を CURB65はお奨め。
confusion (based on a specific mental test or disorientation to person, place, or time),
BUN level >7 mmol/L (20 mg/dL)
respiratory rate >30 breaths/min,
low blood pressure (systolic, <90 mm Hg; or diastolic, <60 mm Hg),
age <65 years
the 30-day mortality
0, 1, or 2 factors was 0.7%, 2.1%, and 9.2%, respectively.
3, 4, or 5 factors were 14.5%, 40%, and 57%, respectively.
0–1 be treated as outpatients
2 be admitted to the wards
>3 often required ICU care.
A simplified version (CRB-65), no BUN
・グラム染色を。肺炎球菌であればペニシリンを。
肺炎球菌ワクチンを!
他のワクチンも米国とは10−20年遅れ!Hib, Tdapも
・麻疹ワクチンも。麻疹って怖い?
肺炎の合併が年間4800例
脳炎は年間55例
死亡例は年間88例程度
・韓国では2006年に撲滅!
・ワクチンの接種法
原則、SCでもIMでもいい
AdjuvantがあればIMのみ
生ワクチンはSCのほうがいい(副作用が少ない)
小児には大腿外側を。他では三角筋を
お尻に打たないで!
SCは45度
IMは90度
Intradermalは15度くらい
同時接種は通常可能
麻疹や風疹ワクチンの前に免疫グロブリンは免疫原性を落とすと考えられている。黄熱病やポリオならOK
下痢
ノロウイルスとは
・以前はNorwalk-like viruses(NLVs)とか、small round structured viruses (SRSVs)と呼ばれていた。
・1970年代に発見
・電子顕微鏡は現場では使いにくく、そのままおざなりにされてしまっていた。
・1990年代にELISA, RT PCR作成
・世界中で報告。世界の下痢症で、最大の原因
・アウトブレイクも
・同じソースから、2人以上患者が出れば、アウトブレイク
・施設で2人以上下痢が出たら、アウトブレイクを疑え!
下痢のマネジメント
・下痢症の入院患者は何が原因であれ、接触感染予防
・アウトブレイクを見逃さない
・脱水をおこさない
・ものすごく吐いている場合は個室管理も考慮
・アルコール製剤は、だめ
STD
・どんなSTDがあるか?必ず意識にはとどめよう。
・HIVは増えている!
疥癬
・潜伏期間は1ヶ月
・見逃さないのが、大事。積極的に見つけるのが大事
・ノルウェー疥癬以外は恐ろしくない
・熱に弱く50℃、10分間で死滅する
・人間の体外では生き延びられない
・隔離は不要
・いずれの薬剤も頸部から下の全身に塗布する。ノルウェー疥癬では,頭頸部を含め全身に塗布する。(AIII)
・ステロイドは使用しない
・γBHCが治療薬。ただし、これは日本だけ。オイラックスも。
・ムトウハップなどいおう剤は使用しない
・治療は専門家が行った方がよい
・海外ならペルメトリンクリーム!これが安全
・イベルメクチンも
MRSA
・MRSAは怖い菌ではない
・強い菌でもない
・MRSA陽性は、病気ではない
・MRSAは空を飛ばない
・手洗いが、大事
・除菌は、意味がない
ただし、、、
ADLの低下した全介助患者,抗菌薬の長期投与例,低栄養状態の患者,褥瘡患者などは,MRSAの感染リスクが高い。したがって,これらのハイリスク患者とMRSA保菌者とを同室にしないように配慮する
基本は,手洗い,清潔動作の励行,部屋の清掃(AIII)
MRSA保菌者の隔離は行わない(CIII)
MRSA保菌者の除菌は強いて行う必要はない。また,MRSA陽性の入院患者が施設に移る前の除菌および入所時の保菌検査を勧告しない。(CIII)
施設における医療従事者の保菌検査は不必要(CIII)
可能であればMRSA保菌者をハイリスク患者と同室にしない。(BIII)
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