注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
膿胸に対する線維素溶解薬の有効性について
肺炎随伴性の胸水は細菌性肺炎に続いて胸膜腔に起こる胸膜感染による胸水である。それらは細菌性肺炎の少なくとも40%で発生する。通常の肺炎随伴性胸水は適切な抗菌薬治療で治癒する。しかし、細菌が胸膜腔に侵入する場合はさらに悪化して複雑性の肺炎随伴性胸水や膿胸(細菌性肺炎の5%)が起こりうるため、その場合は抗菌薬治療に加えてドレナージを行う。治療は一般にドレナージチューブを設置するが、設置にもかかわらず排液が不十分な症例に対して線維素溶解薬(以下線溶薬)が用いられることがある。そこで、線溶薬(ウロキナーゼ・ストレプトキナーゼ・t-PA)の膿胸への有効性について以下で考察する。※1※2
有効性について
2005年のNEJMの報告では胸膜感染の患者に対して線溶薬のストレプトキナーゼ投与群とプラセボ投与群を比較して前者は死亡率、手術率、X線写真、入院期間の改善に何も寄与しなかった。そのため、線溶薬の有効性は疑問視されていた。※3
しかし、2011年のNEJMの報告では胸膜感染の患者に対して線溶薬のt-PA+DNase投与群はプラセボ投与群と比較してドレナージによる効果が改善し、手術の紹介の頻度が低下し、入院期間が短縮した。一方で、t-PA単独投与は従来の見解どおりそれらに効果がみられなかった。DNase単独投与も同様に効果がみられなかった。※4
t-PAとDNaseの組み合わせは膿胸に有効であると言えよう。しかしウロキナーゼやストレプトキナーゼなどとDNaseの組み合わせが膿胸に有効であるか信頼に値する報告はまだない。そのため、線溶薬が膿胸に有効だとは一概に言えないであろう。
線溶薬が無効になるリスク因子について
2013年のBMJの報告によれば胸水に対して胸膜内の線溶療法(t-PAもしくはストレプトキナーゼ)を用いた結果、臨床所見・X線画像上で効果がみられないリスク因子を評価する報告があり、CT画像で2mmより大きい胸膜肥厚があると効果がないリスクが高いとされた。※5
参考文献・論文
※1 UpToDate Parapneumonic effusion and empyema in adults
※2 レジデントのための感染症診療マニュアル 第2版
※3 U.K. controlled trial of intrapleural streptokinase for pleural infection. N Engl J Med2005;352:865-74.
※5 Intrapleuralfibrinolytic therapy (IPFT)in loculated pleural effusions—analysis of predictors for failure of therapy and bleeding: a cohort study BMJOpen 2013;3:e001887
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