今回は、匿名で。アップが遅れて申し訳ない。すごく忙しいのだよ、僕は今。
心嚢液貯留(pericardial effusion)をきたす疾患
心嚢液とは、血漿の限外濾過液であり、正常でも15~50ccほど溜まっている。1)2) この心嚢液が心嚢内に異常に貯留した状態を心嚢液貯留といい、ほとんどの心膜疾患で生じ得る。以下にその主要な原因をいくつか挙げる。
※ 心嚢液貯留をきたす心膜疾患の頻度は、対象となる地域・患者母集団によって異なるが、3)悪性腫瘍に伴う心嚢液貯留が全体の13~23%を占めるという報告がある。4)この割合は、一番多い(急性心膜炎で入院した患者さんの40~86 %を占める2)) 特発性急性心膜炎に次いで大きい。また、結核性心膜炎は、他と比べて頻度はそれほど多くないが、診断が難しく、今週のグレミリオン先生の大リーガー医case conferenceで何度も話題にのぼった結核に興味を持ったこともあり、以上から、特に“悪性腫瘍”と“結核性心膜炎”に伴う心嚢液貯留について、詳しく調べることにした。
心嚢液貯留をきたす心膜疾患 |
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非感染性 |
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* 悪性腫瘍 |
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◎ 男性では肺がんが、女性では乳がんが最も多い5) |
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* 縦隔の放射線照射 |
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◎ 早発性と晩発性のものとがある6) |
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* 代謝性 |
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甲状腺機能低下症(特に粘液水腫による)・慢性腎不全による尿毒症・卵巣過剰刺激症候群など3) |
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* 心血管性 |
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心筋梗塞後早期の心膜炎・ドレスラー症候群・心筋炎・解離性大動脈瘤など3) |
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* 自己免疫疾患 |
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リウマチ疾患・成人Still病など3) |
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* 医原性も含む胸部外傷3) |
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* 薬剤性 |
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◎ プロカインアミド、イソニアジド、ヒドララジンなどによる薬剤誘発性ループスなど3) |
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感染性 |
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* 化膿性心膜炎 |
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◎ 起因菌としてS.pneumoniaeやS.aureusが半分以上を占める2) |
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* ウイルス性心膜炎 |
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◎ 原因ウイルスはEnterovirus、特にCoxsackievirusが一番多い2)が、同定されない場合、特発性心膜炎とされる1)2) |
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* 結核性心膜炎 |
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◎ 致死率が40%以上にも及ぶ1) ◎ 心嚢液は白血球に富み、ADAが上昇し(>30 U/L)、血性であることが多い。1) ◎ HIV患者は結核性心膜炎に罹患しやすい (ヨーロッパやアメリカにおいて、M.Tuberculosisは急性心膜炎の原因の5%にも満たないが、HIV患者やアフリカ では、心疾患における原因の大部分を占める2)) また、ほとんどが無症状であるが、HIV感染患者の10~50%に心嚢液貯留が見られ、その場合、感染が進んでいる ことが多い2) |
※ “心嚢液貯留をきたす疾患”の鑑別に、心エコーガイド下の心嚢穿刺をして検査することが役立つ。1) 採取した心嚢液の赤血球数や白血球数の測定、がんに関する細胞診、鏡検や培養、PCRを行う。しかし、ウイルスが心嚢液から単離されないこともしばしばあり、簡単に鑑別が行えず、心膜生検が必要なこともある。2) また、血性の心嚢液の原因としては、発展途上国や結核の流行地域では結核、先進国や結核の非流行地域では悪性腫瘍によるものが多い。1)2)
心嚢液貯留を認めたら、上に挙げた“心嚢液貯留をきたす疾患” を念頭において、それぞれの疾患に応じた検査を行う。
心嚢液貯留という所見が、悪性腫瘍などの隠れた重大な疾患を見つけ出すカギになる。また、心嚢液貯留と併せて、患者さんの背景・基礎疾患を考慮することが、“幅のある疾患”と称される、結核やHIV感染などの鑑別に役立つ。“心嚢液貯留をきたす疾患”を調べて、これらのことを念頭において患者さんを診ていくことが大切だと感じた。
references
1) ハリソン内科学,第3版,p.1061-1062.1552-1557
2) Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases,7th edition,p.1161-1165.
3) up to date 「Diagnosis and treatment of pericardial effusion」
4) up to date 「Pericardial disease associated with malignancy」
5) NICのPDQ® (Physician Data Query)
6) up to date 「Etiology of pericardial disease」
脳外科的治療関連性髄膜炎の診断と治療について
開頭術、脳室シャントの挿入など脳外科的治療もしくは頭部外傷の後に0.3~2.3%の割合で髄膜炎が 起こるといわれている[1][2]。これらの脳外科病棟での髄膜炎は市中の細菌性髄膜炎とは原因となる細菌が大きく異なるということが重要である[3]。グラム陰性菌(38%)、連鎖球菌(9%)、黄色ブドウ球菌(9%)、表皮ブドウ球菌(9%)がみられる。市中髄膜炎でみかける肺炎球菌(5%)、リステリア(5%)、髄膜炎菌(1%)が原因であることもある。
<診断>
・発熱、頭痛、意識障害
一般的な髄膜炎では発熱(77-85%で陽性)、頭痛(79-94%)、意識障害(83%), 項部硬直(83-94%)がみられる[4]。一方、シャントによる感染においては項部硬直が陽性率45%という報告もあり[5]、また熱などの症状を伴わない場合もある[6]。
・ Kernig徴候、Brudzinski徴候、項部硬直[4]
Kernig徴候(感度5%、特異度95%)、Brudzinski徴候(感度5%、特異度95%)、項部硬直(感度30%、特異度68%)。Jolt accentuation(左右に首を振ってもらうと激しく頭痛が増強する)は感度97%、特異度60%である。
・血液培養:50-90%で陽性。
・髄液検査
(1)糖< 34 mg/dL (1.9 mmol/L)、(2)蛋白> 220 mg/dL、(3)WBC>2000/microL、(4)好中球> 1180/microLの(1)~(4)のいずれかを満たせば細菌性髄膜炎である確率は99%以上になるという[7]。一方シャントなどの中枢神経の治療関連感染では細菌性髄膜炎に比べ弱い炎症反応を示すことが多いため、髄液中の細胞数の異常が少なく、術後の炎症との区別がつきにくい[6]。シャント感染においては発熱の病歴とCSFの好中球>10%の組み合わせが99%の特異度をもつという[8]。
・髄液グラム染色、髄液培養
グラム染色の感度は報告によって60~90%のばらつきが存在する。一方特異度は100%に近づいてきている。髄液培養ではグラム染色より感度が4~13%程高いことが報告されているが、培養で陰性のものでも10~15%で陽性を認めたという報告もある[4]。
<治療>
・脳室シャントなどが入っている場合は抜去することが望ましい。ある報告ではシャントを完全に抜去した群、抜去しすぐに新しいものを入れた群、抜去しなかった群では治癒率はそれぞれ95%、65%、35%であったとある[6]。
・エンピリックな治療
起炎菌について上で述べたとおり、エンピリックな治療としてはグラム陽性とグラム陰性菌(クレブシエラ、緑膿菌など)をカバーしなければならない。レジメンとしては
・バンコマイシン30~60 mg/kg IV/dayを2・3回に分けて。
+
・セフタジジム2 g IV/8h, OR セフェピム 2 g IV/8h, ORメロペネム2g IV/8h
・CSF培養陰性の場合
もしCSF培養が陰性で非細菌性髄膜炎であることを示唆する場合に抗菌薬の投与を中止してよいかについては、もしCSF培養が陰性であった場合48~72時間以内に中止することができるという結論にコンセンサス会議で至っておりこれを支持する報告もされている[9].
・脳室内への抗菌薬投与[6]
抗菌薬の髄液内注射は有毒である可能性があり、汚染がないように十分な注意と準備が必要である。まだこの治療のRCTは行われておらず、現在ある治療が失敗したときのみに考慮するべきである。
・抗菌薬投与期間[6]
a. 正常CSFかつ培養で表皮ブドウ球菌(+)の場合、培養が陰性化していれば3日目に中止できる。
b. CSFで異常が認められる場合、シャント除去後1週間は投与を継続する。
c. 黄色ブドウ球菌やグラム陰性菌などの悪性の高い菌がある場合は長めに投与する。黄色ブドウ球菌で最低10日、グラム陰性桿菌では14~21日間投与すること。
参考文献
1. McClelland S 3rd, Hall WA. “Postoperative central nervous system infection: incidence and associated factors in 2111 neurosurgical procedures.”, Clin Infect Dis. 2007;45(1):55.
2. Dwarakanath Srinivas, Veena Kumari H. B., Sampath Somanna et al. “The incidence of postoperative meningitis in neurosurgery: An institutional experience”., Neurology India. 2001; 59(2)
3. Allan R Tunkel. “Epidemiology of bacterial meningitis in adults”. UpToDate. Last updated on 4/1/2011
4. Allan R Tunkel, MD, Phd, MACP. "Clinical features and diagnosis of acute bacterial meningitis in adults" UpToDate. Last updated on 16/06/ 2009 .
5. Conen A, Walti LN, Merlo A et al. “Characteristics and treatment outcome of cerebrospinal fluid shunt-associated infections in adults: a retrospective analysis over an 11-year period.” Clin Infect Dis. 2008;47(1):73.
6. Larry M Baddour, Patricia M Flynn, Thomas Fekete et al. “Infections of central nervous system shunts and other devices”. UpToDate. Last updated 14/01/2011
7. Spanos A, Harrell FE Jr, Durack DT. “Differential diagnosis of acute meningitis. An analysis of the predictive value of initial observations.” JAMA. 1989;262(19):2700.
8. McClinton D, Carraccio C, Englander R. “Predictors of ventriculoperitoneal shunt pathology.” Pediatr Infect Dis J. 2001;20(6):593
9. Zarrouk V, Vassor I, Bert F. “Evaluation of the management of postoperative aseptic meningitis.” Clin Infect Dis. 2007;44(12):1555.
心タンポナーデの臨床的特徴と診断
定義
心膜腔には生理的に25~30mlの心膜液が存在している。しかし、何らかの原因で心膜伸展を超える液貯留が起こると心膜腔の内圧が上昇し、心臓本体の拡張が妨げられる。それにより静脈還流障害が生じ、心拍出量低下をきたした病態を心タンポナーデと定義する。内圧の上昇は心嚢液の量、貯留速度、心膜の進展性に依存するため、心嚢液貯留=症状が発症するとは限らない。
悪性腫瘍の心膜転移、特発性心膜炎、腎不全に続発する心膜液貯留が3大要因である。他に、心破裂、外傷、大動脈解離(Stanford A)などの出血も原因となる。
自覚症状
急性の場合(例:出血)はショック・意識消失が見られる。急性でない場合は呼吸困難、胸痛、体重減少、食欲不振、倦怠感を訴える。
他覚症状(身体所見)
心拍出量の低下により、低血圧が見られる。また、心拍出量を維持しようとして洞性頻脈が起こる。洞性頻脈はほぼ全ての患者に見られるが、徐脈を引き起こす疾患が基礎にある場合(例:甲状腺機能低下症)や、早期の心タンポナーデの場合(血行動態の異常を示唆する場合であっても)は見られない。
静脈還流量の増加によってCVPが上昇し、頸静脈怒張(頸静脈波曲線でのy谷の減衰・消失)・肝腫大・下腿浮腫が見られる。また、吸気時には胸腔内圧が低下するため、静脈還流量が更に上昇する。それにより、次の2つの現象が起こる。
l クスマウル徴候Kussmaul sign:頸静脈が吸気時に更に怒張する現象。
l 奇脈Pulsusparadoxus:吸気時に収縮期血圧が10mmHg以上低下する現象(右室容積の上昇に伴い、左室容積が低下する。すると1回拍出量が減少し、収縮期血圧が低下する)。全ての患者に見られるわけではなく(並~重症の場合に出現)、心タンポナーデ以外の病態でも出現しうる点に注意(喘息、COPD、PE、循環血液量減少性ショックなど)。
心膜腔の貯留物によって心尖拍動の触知困難・心音減弱をきたす。また、炎症性心膜炎が原因の場合、心膜摩擦音が聴取できる。頸静脈怒張・心音減弱・低血圧をまとめて「ベックの三徴」と呼ぶ。
診断
上述の身体所見に加え、エコー検査が有効である。心嚢液貯留がある場合、Dopplerエコー検査で、吸気時に肺動脈弁、三尖弁を通過する血流の速度が著明に増大し、肺静脈、僧帽弁、大動脈弁を通過する血流の速度が著明に減少する。また、右室径の減少、拡張期の右室自由壁・右房壁の虚脱も見られる。
急激に発症するケースではPulseless Electric Activity(PEA)となることもあるため、診断の遅れは致命的である。早急に処置を行えば自己心拍再開ROSCが可能なので、カテーテル検査時、大動脈瘤、心筋梗塞などでの急変時には、常に本症を念頭に置くことが重要。
参考文献
Cardiac Tamponade; Brian D Hoit, MD; 2009:UpToDate 19.1
朝倉内科学[第九版]p.559-560; 白土邦男; 2007: 朝倉書店
ハリソン内科学[第三版]p.1554-1556; 福井次矢, 黒川清; 2009 メディカル・サイエンス・インターナショナル
肝腎症候群について
0713545m
【病態】 肝腎症候群は病理学的には異常を認めない機能的な腎機能障害であり、腎前性腎不全の特異な種類であるといえる。頻度としては進行した肝硬変や急性肝不全の約10%で認められる。機序としては、肝疾患により内臓の血管拡張と動静脈シャントが引き起こされ、結果的に腎内の血管収縮を引き起こす。これにより著明な腎動脈系循環障害を認めることが本症候群の病態である。
【分類】 1型肝腎症候群は腎機能障害が急速に進行してクレアチニンクリアランスが1~2週間で著明に低下するのが特徴である。2型肝腎症候群は血清クレアチニンの上昇を伴う糸球体濾過量の減少が特徴であるが、病態は安定していて、1型に比べ予後は良い。
【診断】 他の急性腎不全を引き起こす原因を除外することで診断される。その上でInternational Ascites Clubは次のような診断基準を示している。
【肝腎症候群の診断基準】
1.進行した肝不全と門脈圧亢進を伴う急性または慢性肝疾患がある
2.糸球体濾過率(GFR)の低下、血清Cr>1.5mg/d・または24時間クレアチニン・クリアランス<40m・/分以下
3.ショック、感染症、腎毒性薬物の投与、消化管からの体液の消失などがない
4.利尿薬中止と生理食塩水(1500m・)によるplasma expansionの効果が持続しない
5.尿蛋白<500mg/d・、かつ超音波検査で尿路閉塞や腎実質障害を認めない
【治療】 肝臓の基礎疾患を治療することで、急性腎不全も改善される。そのため肝移植が最も有効な治療法となる。肝移植までの待機期間を延長させる目的で透析もよく行われる。その他の治療法としてはミドドリンとオクトレオチドの併用療法に、アルブミン静脈内投与を加えたものや、ICUの患者に対しては、ノルエピネプリンにアルブミン静脈内投与を加えたものがあるが、いずれもほとんど有効であるとは言えない状況である。
【予後】 予後は肝移植などによって肝臓の基礎疾患が改善されないかぎり不良である。特に1型の肝腎症候群では、全身的な血行動態が回復した後でも急性腎不全は進行し、死亡率は90%を超える。
参考文献 HARRISON’S INTERNAL MEDICINE 17th Edition . p1753,1758,1760,1979
Arroyo V, Gines P, Gerbes AL, et al. Definition and diagnostic criteria of refractory ascites and hepatorenal syndrome in cirrhosis. International Ascites Club. Hepatology 1996; 23: 164
Esrailian E, Pantangco ER, et al. Octreotide/Midodrine therapy significantly improves renal function and 30-day survival in patients with type 1 hepatorenal syndrome. Dig Dis Sci 2007; 52: 742
Duvoux C, Zanditenas D, et al. Effects of noradrenslin and albumin in patients with type1 hepatorenal syndrome: a pilot study. Hepatology 2002; 36: 376
血管内カテーテル感染の治療
カテーテル感染の治療
1. 血流感染のない局所感染症は中心・末梢静脈カテーテルを抜去・培養を提出、抗菌薬を開始。
2. カテーテル関連血流感染症は・カテーテルの抜去・温存・交換の決定と・抗菌薬療法。コアグラーゼ陰性ブドウ球菌以外は、カテーテルの抜去を可能な限り行う。
抗菌薬療法を行わない3例を以下に示す:
1. 臨床所見なくカテーテル先培養陽性の例
2. 末梢静脈血培養陰性でカテーテルを介した血液培養陽性例
3. 非感染性の静脈炎例:これはCRBSIとなるリスクは極めて低いためである。
一方、カテーテル抜去が必要となる例として以下の5例を含む:・重症敗血症、・不安定な血行動態、・心内膜炎もしくは移行性感染、・化膿性血栓性静脈炎による紅斑あるいは滲出液、・反応性のある抗菌療法施行72時間後に持続する菌血症。
カテーテルの抜去・温存・交換の決定には起因菌別に対処する必要がある。
図1.抜去可能なCVC関連血流感染症の治療(青木眞 レジデントのための感染症診療マニュアル 医学書院 2008; 629-640より改変)
・14日間以上留置された長期カテーテルは、黄色ブドウ球菌・緑膿菌・真菌・抗酸菌由来を危惧して抜去を要する。また、グラム陰性桿菌も抜去する。
・カテーテルの抜去が困難であり、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌がカテーテル内腔に存在する例は、「抗菌薬ロック治療」が適応となる(Grade 2C)が、再発リスクは上昇する(後ろ向き研究による175症例中の相対リスク 6.6)。
・黄色ブドウ球菌は感染性心内膜炎(IE)発症のリスクが25-32%と高いため、IEと診断がつかなくても、経食道心エコー(TEE)を施行する。
参考資料
1. Mermel LA, Allon M, Bouza E, et al. Clinical Practice Guidelines for the Diagnosis and Management of Intravascular Catheter-Related Infection: 2009 Update by the Infectious Disease Society of America. CID 2009; 49:1-45.
2. Up to Date; Treatment of intravascular catheter-related infections
3. Mandell GL, Bennett JE, and Dolin R. Mandell, Douglas, and Benett’s principles and practice of infectious diseases. 7th edition. 2010. p3697-3710.
4. Raad I, Kassar R, Ghannam D, et al. Management of the catheter in documented catheter-related coagulase-negative staphylococcal bacteremia: remove or retain? Clin Infect Dis 2009; 49:1187.
カテーテル感染症の診断
カテーテルが挿入されている患者で、発熱・悪寒・血圧低下などの症状があり、カテーテルの他に明らかな感染源がない場合はカテーテル感染症を疑う。カテーテル感染症の診断は臨床診断と微生物学的診断を合わせて行われる。
まず患者の症状をもとに臨床診断が行われる。発熱に加えて刺入部に発赤や膿が見られればカテーテル感染症を疑う。しかし、刺入部の炎症所見は特異度は高いが感度は低いため、刺入部の所見がないからといってカテーテル感染症を否定することはできない。このように臨床診断だけで診断を決めることは難しく、これに加えて微生物学的診断を行うことが必要である。
微生物学的診断では、以下の検査法が米国感染症学会のガイドラインで推奨されている。
1. 末梢血の血液培養とカテーテル先端の培養の結果が一致する(A-・) 2. カテーテル血と末梢血培養でカテーテル血の陽性化が2時間以上早い(differential time to positivity:DTP)(A-・) 3. カテーテル血、末梢血の定量培養でカテーテル血のコロニー数が末梢血のコロニー数の3倍以上(A-・) |
1は最も有用性の高い検査法であるが、カテーテルを抜去する必要がある。しかし、多数の点滴薬を使用していてカテーテルが必須な場合や、代替ルートがなく再挿入が困難な場合にはカテーテルを抜去できないためこの検査法は使用できない。これに対して2のDTPはカテーテルを温存したまま行うことが可能である。DTPはカテーテルが感染源となっているならばカテーテル血のほうが末梢血よりも多くの微生物を含むはずであるという考えに基づいており、感度85%・特異度91%と有用な検査法である(・)。3の検査法は定量培養を行う必要があるが、定量培養は高価で技術的に難しく、多くの施設で不可能と考えられる。これに対し、定性培養は多くの施設で行うことが可能であり、カテーテル血の定性培養の陽性的中率63%・陰性的中率98%であるため、定性培養が陰性ならばカテーテル感染症を否定するのに有用な検査法といえる(・)。以上を踏まえると、臨床診断でカテーテル感染症が疑われ、微生物学的診断で1,2,3の検査法のうち少なくとも1つを満たす時、カテーテル感染症と診断される。
参考文献
Up To Date: Diagnosis of intravascular catheter-related infections;Jeffrey D Band, MD
・Meta-analysis: methods for diagnosing intravascular device-related bloodstream infection. Ann Intern Med. 2005;142(6):451.
ClinicalPractice Guidelines for the Diagnosis and Management of Intravascular Catheter-Related Infection: 2009 Update by the Infectious Diseases Society of America
レジデントのための感染症診療マニュアル第2版,2008,医学書院,p.629~631
臨床に直結する感染症診療のエビデンス-ベッドサイドですぐに役立つリファレンスブック,2008,文光堂,p150~151
・Clinical utility of blood cultures drawn from indwelling central venous catheter in hospitalization patients with cancer. Ann Intern Med 1999 ; 131(9) : 641-647
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