注意! これは神戸大学病院医学部生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。お尻に岩田が「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
ERCP後の膵炎の効果的な予防策は何か?
内視鏡的逆行性膵胆管造影(ERCP)は、膵癌・胆道癌の診断や、胆管炎・閉塞性黄疸の治療などを低侵襲に行うことのできる手技であるが、その後偶発的に起こる膵炎の発症を完全に予防することはできていない。ではこの膵炎を発症するリスクを軽減するためにはどのような対策が効果的であるのかについて調べた。
1541名の患者に対しMazakiの行ったランダム化比較試験の解析〔1〕の結果、ERCP後に予防的膵臓ステント(PS)を留置した群760名と、しなかった群781名では、PSを留置した群に有意なERCP後膵炎の発症率の低下を認めた。〔相対リスク(RR)0.39、95%信頼区間(CI)0.29-0.53〕これによりERCP後のPS留置は、ERCP後膵炎に対する効果的な予防策といえる。
また、ERCP後膵炎の発症を予防する方法として、wire-guided-cannulation(WGC)という方法が期待されている。これは、挿管前にガイドワイヤーを先進させて、ガイドワイヤーの抵抗とX線画像を用いて挿管を行う方法であり、膵管への造影剤注入を必要としないため膵炎の発症を抑えられると考えられる。Cennnamoの行ったランダム化比較試験の解析の結果〔2〕、WGCを用いた方法では、標準的なERCPと比べて有意にERCP後膵炎の発症率の低下を認めた。(RR 0.23、95%CI 0.13-0.41)これにより、WGCを用いることでERCP後膵炎を予防できることが分かるが、ガイドワイヤーによる膵管分枝の損傷や乳頭部後壁の穿通などのリスクも高いため、術者の技術が必要である。実際に、日本で同様のランダム化比較試験が行われたが、ERCP後膵炎の発症率に有意な差は認められなかった。ゆえに、この方法が効果的なERCP後膵炎の予防策となるには、手技の標準化や適切な教育が必要であると考える。
ERCP前の予防的抗菌薬投与の効果についてBrandの行ったランダム化比較試験(1573例)の結果〔3〕、抗菌薬投与群とプラセボ群での細菌血症の発症(RR 0.50、95%CI 0.33-0.78)に対しては有意に予防効果が得られたものの、ERCP後膵炎の発症には有意な差は見られなかった(RR 0.54、CI 95% 0.29-1.00)。これより、ERCP前の予防的抗菌薬投与は膵炎の発症に対しても効果は乏しいと考えられる。
以上より、ERCP後の膵管ステントの留置、WGC法を用いた挿管はERCP後膵炎の発症に対する有効な予防法であり、可能であれば積極的にこれらを導入していくべきであると考えた。ただし、ERCP後膵炎の発症は完全に予防できるわけではないため、ERCP後も慎重なフォローアップを行い、発症した際に迅速な診断と治療を行うことが最も大切であると考える。
〔1〕Masaki T, Mado K et al : Pancreatic stents for prophylaxis against post-ERCP pancreatitis: a meta-analysis and systematic review. J Gastroenterol 49 : 343-355,2014
〔2〕Cenamo V, Bechtold ML et al : Can a wire-guided cannulation technique increase bile duct cannulation rate and prevent post-ERCP pancreatitis?: A meta-analysis of randomized controlled trials. Am J Gastroenterol 104 : 2343-2350,2009
〔3〕Brand M et al : Antibiotic prophylaxis for patients undergoing elective endoscopic retrograde cholangiopancreatography. Cochrane Database Syst Rev.2010
寸評:よく分析していると思います。
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。