注意！ これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
２０１６年７月１５日より、レポート提出のルールを変えています。学生に与えられたレポート作成時間は総計５時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、５時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。
また、未完成者が完成者より得をするモラルハザードを防ぐために、完成原稿に問題があってもあえて修正・再提出を求めていません。レポート内には構造的に間違いが散在します。学生のレポートの質はこれまでよりもずっと落ちています。そのため、岩田が問題点に言及した「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
「結核性髄膜炎に対するステロイド投与によってどの程度予後が変わるか」
結核性髄膜炎の治療では、標準治療としてisoniazid，rifampicin，pyrazinamide，ethambutolの4剤を併用する他に、補助療法として副腎皮質ステロイド薬を投与することが推奨されている[1]。結核性髄膜炎にステロイド投与がどの程度影響を及ぼすか興味を抱き、今回のテーマとした。
Thwaitesらは結核性髄膜炎患者に離間した14歳以上の患者に対してランダム化試験を行った[2]。dexamethasone投与群274人とプラセボ群271人の計545人に対して解析が行われた。治療開始より9ヶ月後の死亡率はdexamethasone投与群で32%、プラセボ群で41%と有意に低下した（RR 0.69; 95% CI 0.52-0.92; p=0.01）。またdexamethasone投与群では入院期間の延長や神経障害を引き起こしたり、生命を脅かすような重篤な合併症の頻度を有意に減少させた（dexamethasone投与群で26例、プラセボ群で45例; p=0.02）。特に重度の肝機能障害を合併する頻度は有意に減少した（dexamethasone投与群で0例、プラセボ群で8例; p=0.004）。
Prasadらは結核性髄膜炎患者の補助療法として副腎皮質ステロイドを投与した群と投与しなかった群における死亡率と重篤な合併症の発生率についてメタ解析を行った[3]。Thwaitesらの研究を含む9つの研究で総計1337名が解析された。3～18ヶ月のフォローでの死亡率はステロイド投与群の方が約25%低かった（RR 0.75; 95% CI 0.65-0.87）。ステロイド投与群で有意に神経障害の発生率が低下することはなかった（RR 0.92; 95％CI 0.71-1.20）。またステロイドによる有害事象の発生率に有意差は見られなかった（消化管出血（RR 1.45; 95％CI 0.61-3.48）、浸潤性細菌感染（RR 0.84; 95％CI 0.36-1.93）、高血糖（RR 1.82; 95％CI 0.40-8.36）、肝障害（RR0.79 ; 95％CI 0.57-1.09））。
肝障害は抗結核薬の副作用として問題になる事が多く、Thwaitesらの研究によりステロイド投与が治療薬選択に大きく影響を与える肝障害の合併を減少させる可能性が示唆された。Prasadらのメタ解析では、ステロイド投与によって神経障害の発生率を低下させることはできなかったが、死亡率に関しては、ステロイド投与が有害事象の頻度を増やすことなく約25%低下させることがわかった。したがって、結核性髄膜炎に対してステロイドを投与することは一定の予後改善に繋がるとわかった。
[1] Up to Date; Central nervous system tuberculosis. Nov 07, 2017.
[2] Thwaites GE, Bang ND, Dung NH et al. Dexamethasone for the treatment of tuberculous meningitis in adolescents and adults. N Engl J Med 2004;351 (17) 1741- 1751
[3] Prasad K et al. Corticosteroids for managing tuberculous meningitis. Cochrane Database Syst Rev. 2016 Apr 28;4:CD002244. doi: 10.1002/14651858.CD002244.pub4.
寸評；まあ、割と普通の質問に対する普通の答えだったと思います。コクランを引用したのは良かったです。
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