献本御礼
著者には心の底から謝りたい。誠に申し訳ない。お詫びの印に、ささやかながら強めのタイトルとした。
言い訳ながら、オフィスの棚には送っていただいた本が山積みなのである。読みたいと思っていてもすぐには読めない。うず高く積み上がる本を読めるのが1,2年遅れてしまうことも珍しくない。誠に申し訳ないのだけれど。
ぼくは専門外の本を読むのは好きなので本書もお送りいただいた時、「お、眼科の本か。面白そうだ」と思いつつも緊急性がなかったために後回しにしてしまっていた。著者名など見てもいなかった。
ところが、最近になって眼科の先生から講演を頼まれた。感染症はクロスボーダー領域なのでこういう異種格闘技戦は多い。耳鼻科の先生から、産婦人科の先生から、皮膚科の先生から、整形外科の先生から講演を頼まれる。まあ、感染症の学会からはあまりお呼びがかからないのですけれど。本当は本丸の感染症業界でも申し上げねばならない問題は多々あるのだが、それはここでは、よい。
で、眼と感染症の話を擦れっ枯らしの眼科医の先生にするわけで、これは緊張する。おさらい、勉強も必要なわけで、「あ、そういえば眼の本、どっかにあったな」と探し当てた(発掘した)のが本書。
ふと、著者名を見る。ええええーー知ってる人やん。
著者の若原先生は沖縄県立中部病院時代の同期である。それだけではない。亀田総合病院時代は在宅診療をされており、そのときにも同僚としてお世話になった。非常に向学心の強い人で、放射線科で1年修行をされていたと記憶している。「内科医がちょっとやそっとの勉強で読影ができると思っちゃ、だめだよ」という台詞を今も忘れられない。そうだよねえ。
その向学心旺盛な若原先生がなんと今は眼科医になっておいでである。そして、内科医目線で眼科診療を解説しようというのである。腰が抜けるほど驚いた。2016年刊行の本書の紹介がかくも遅くなった理由は、そういうわけだ。重ね重ね申し訳ない。
ぼくはですねえ。沖縄中部時代の同期(31期)には絶対の信頼をおいているんですよ。一緒に死線を乗り越えた戦友(誇張なし)、というのもあるし、みんな本当に優秀なドクターなんです。知名度と臨床医としての力は同義ではないけれど、有名所としては本村和久、窪田忠夫、田中竜馬がいる。ちなみに1期下の32期に、帯を書かれた岸本先生(かの聖路加膠原病の、リーダー格だ)がいる。
若原君も(いきなり君付け)そんなわけで、亀田でも一緒だったこともあって臨床力やそのセンスには絶対的な信頼をおいている。そのようなバイアスをできるだけ排除しながら本書を読むのだが、実に面白い。付箋をハリまくる。いちおう、米国ではコモンな眼科疾患は内科医も研修必須だし、北京にいたときは周囲に眼科医がいなかったので細隙灯まで備えてのファミリープラクティスだったのだが、このようなプロの指南書は読んだことがなかった。本書にもあるように、眼科と他の診療科は疎遠なことが多いので、眼科医が他科の医師を指南する機会は少ないのだ。とはいえ、感染症領域など典型的だが、眼科医と一緒に仕事をする機会は実に多い。教授会に参加する希少な恩恵として、このような他科のプロフェッショナルと知己を得て対話ができるという点があり、ぼくも中村教授と患者についてトークするのは楽しい。
それにしても、ぼくらは本当に何も眼科のことを知らない。と本書を読むと痛感させられる。その知らないっぷりが全部分かってしまうのは、眼科のプロにして、「内科医はこのへんが分かってないんだよな」という眼差しを持てる若原くんだからこそ書けるのであり、余人に代えがたい。彼にしかこういう本は書けないのだろう。
「あなたの緑内障ですので白内障手術をしましょう」「眼科医は眼底出血と言わない」「ぶどう膜炎は存在診断は簡単、原因診断は難しい」「眼底を見れる内科医は稀有」といった軽妙な文章も素晴らしい。こんなに文章上手だったっけ(失礼)。視力検査の意味や、あの風船がやってること、レーシックやコンタクトレンズの評価など、ぼくらが知っといたほうがよいけど実は知らない情報で満載である。
ジェネラリストが他領域の勉強をするテキストを探す時、良書は以下の条件を備えている。
1.読みやすい。文章が洒脱でページ・ターナーならなおよい。
2.読者目線を忘れていない。
3.内容の妥当性は割引してない。
4.役に立つ。
本書はすべての条件を備えた、良書といえる。もっと前に読んでおくべきであったと強く再度反省するのである。
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