注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
2016年7月15日より、レポート提出のルールを変えています。学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。
また、未完成者が完成者より得をするモラルハザードを防ぐために、完成原稿に問題があってもあえて修正・再提出を求めていません。レポート内には構造的に間違いが散在します。学生のレポートの質はこれまでよりもずっと落ちています。そのため、岩田が問題点に言及した「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
胆管癌術後における反復性胆管炎に対する抗菌薬の予防投与は有用であるか
胆管癌は、胆管から発生するムチン産生腺癌で胆管細胞への分化を特徴とし、発生の解剖学的位置によって肝内胆管癌、肝門部胆管、末梢性胆管癌に分類されることが知られている。これらの治療としては、それぞれの性状に合わせた治療が選択されるが、通常、根治を前提とした治療では外科的切除が選択されることが多い。1)手術の術式により、肝切除、肝外胆管切除、膵頭十二指腸切除が組み合わされ、さらに胆道再建のために胆管空腸吻合術、胆管十二指腸吻合術などが実施される。これらの術式は胆管癌に限らず選択されることがあるが、致命的な合併症の一つとして術後の胆管炎があることが知られており、その頻度は10%前後であり、またそのうち4%前後が再発性であったという報告がなされている。2)術後に胆管炎を発症する機序としては、手術過程において胆道が狭窄することによって生じる胆管内圧の上昇と、Vater乳頭の消失による逆行性の細菌感染が考えられる。3)今回は、これらの胆管炎を抗菌薬の予防投与によって未然に防ぐことはできないかという疑問に対して考察する。
S. J. van den Hazelらは、1983年9月から1991年1月までの間に肝門部悪性腫瘍に対して手術を行い、胆道再建を行った78人を対象に後ろ向き研究を行い、胆道再建後の反復性胆管炎の再発生率が抗菌薬による維持療法によって変化するのかということについて調査した。78人の内、追跡できたのは54人で、38人が1回以上胆管炎になり(平均観察期間22.8ヶ月)、16人には胆管炎は起こらなかった(平均観察期間17.1ヶ月)。胆管炎を経験した患者の中で、再発を繰り返し、通常の生活が不可能になった14人に対して経口での抗菌薬の維持療法を行った。抗菌薬の維持療法は、炎症の再発の発生率を低下させる目的で投与される長期(3ヶ月以上)の抗生物質療法のコースと定義され、通常の治療量で5〜7日間治療された後、その半分の量で継続された。実際に行われた維持療法の期間は平均3.4ヶ月であり、平均12人にトリメトプリム/スルファメトキサゾール、2人にシプロフロキサシンが投与され、6人では胆管炎の再発がみられなくなり、5人では大幅な頻度の減少がみられ、3人では再発がみられた。4)
上記の文献は、胆道再建を行った患者に対しては予防的な抗菌薬投与による維持療法が有効である可能性を示唆する。しかし、それぞれの患者の維持療法前の医療介入の情報、維持療法前後における再発数の具体的な数値、コントロール群との比較などの記載が無く、頻度の減少や、無再発の期間といった有効性の具体的な議論がなされていないため、有効性の信頼性は低いと考えられる。これらのデータは、見つけることのできたものの中では最良のものであった。よって、抗菌薬の長期間投与による副作用などを考慮した上で、これらの情報だけで実際に胆管癌術後患者の臨床に応用することは確実性に欠け、今回の疑問に対する答えには、さらなる研究が必要となる。近年の報告を調べると、小児の胆道閉鎖に対する葛西手術後の患者における抗菌薬の予防投与の報告は多く見られるが、成人の胆道再建後患者に関する報告は2000年以降非常に少なくなっているように思われる。一定の効果があるという報告がある以上、ランダム化比較試験などのさらなる前向きな研究が行われていくべきだと考える。
1)ハリソン内科学 第5版 vol.2 563-564
2)Panis Y, Fagniez PL, Brisset D, Lacaine F, Levard H, Hay JM. Long term results of choledochoduodenostomy versus choledochojejunostomy for choledocholithiasis. The French Association for Surgical Research. Surg Gy- necol Obstet 1993 ; 177 : 33─7.(RCT)
3)TG13新基準掲載‐ 急性胆管炎・胆嚢炎診療ガイドライン 2013
4)S. J. van den Hazel,P. Speelman,G. N. J. Tytgat,D. J. van Leeuwen, Successul treatment of recurrent cholangitis with antibiotic maintenance therapy.European Journal of Clinical Microbiology and Infectious Diseases August 1994, Volume 13, Issue 8, pp 662–665
寸評:これも難しいテーマによく取り組みました。
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