注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
2016年7月15日より、レポート提出のルールを変えています。学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。
また、未完成者が完成者より得をするモラルハザードを防ぐために、完成原稿に問題があってもあえて修正・再提出を求めていません。レポート内には構造的に間違いが散在します。学生のレポートの質はこれまでよりもずっと落ちています。そのため、岩田が問題点に言及した「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
PCNSLを合併したHIVの予後はどれくらいなのか
原発性脳悪性リンパ腫(PCNSL)は、HIV感染者により多く見られる疾患で、HIV感染者における発生率は2~6%で、HIV非感染者に比べると、少なくとも1000倍以上といわれている1)。1996年以降では、抗HIV療法としてantiretroviral therapy(ART)療法が広く行われるようになり、それとともにPCNSLの罹患率は激減している2)。AIDSに関連したPCNSL(AR-PCNSL)の治療方法はいくつかあり、ART療法に放射線療法や化学療法(メトトレキサートなど)を組み合わせて治療する。しかしAR-PCNSLに対する最適な治療法はいまだに定まっていない1)。
治療ごとの平均生存期間を比べた論文がある2)。この論文では、ART療法と放射線療法の併用では、平均生存期間は1ヶ月に対し、ART療法とメトトレキサート大量療法(HD-MTX)の併用では、60ヶ月以上、完全寛解率は65%(13/20)と報告されている。
この研究をもとにAR-PCNSLの治療法について考えると、放射線治療より、化学療法による治療のほうが適切なのではないかと考えられる。しかし、この研究にはいくつか問題点が存在する。ひとつはこの研究が後ろ向き研究であることである。とはいえ、ART療法の普及により、PCNSLの罹患率が激減したため、この問題を解決することは難しい。もうひとつは、この研究の対象となっている患者は23歳から55歳であり、高齢者は含まれていない。放射線治療による長期的な毒性のことも考えると、高齢者と若年者とでは治療方針が違ってくるであろう。また、他の問題点として、ART療法と放射線療法の併用を行った症例が4例、ART療法とHD-MTXの併用を行った症例が20例と少ないことである。ART療法と放射線療法の併用での平均生存期間は1ヶ月と極端に短かったが、この治療を行った症例が4例と少ないことが原因かもしれない。また、ランダム化比較試験ではないため、もともと全身状態の悪い患者に対して、ART療法と放射線療法の併用療法を行った可能性もある。これらのことを考えると、この研究だけでは、AR-PCNSLの予後は、ART療法とHD-MTXの併用でよりよくなる、と言い切ることはできない。AR-PCNSLのどの治療が最適な治療か考えるためには、これから幅広い年齢を対象とした大規模な前向きの臨床研究が行われる必要があるだろう。
以前は、副腎皮質ステロイドと放射線療法によって治療されてきたAR-PCNSL患者の平均生存期間は、一番長い研究で3.5ヶ月であり1)、予後が悪いといわれてきた。しかし、ART療法が広まるにつれ、HIV患者の予後は格段によくなった3)のと同様に、AR-PCNSLも、ART療法とHD-MTXの併用の適応が広がることにより予後がよくなり、近い将来数年以上生きることができるようになるかもしれない。
<参考文献>
1) UpToDate AIDS-related lymphomas: Primary central nervous system lymphoma
2) Neel K Gupta, Amber Nolan et al. Long-term survival in AIDS-related primary central nervous system lymphoma. Neuro Oncol (2017) 19 (1): 99-108.
3) UpToDate The natural history and clinical features of HIV infection in adults and adolescents
寸評:文章があちこちに逍遥していますが、議論はしっかりしているのでよいでしょう。ときに、ARTのTはtherapyなので、ART療法という言い方はおかしすぎて頭痛が痛いです。
ご苦労様。
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