注意！ これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
２０１６年７月１５日より、レポート提出のルールを変えています。学生に与えられたレポート作成時間は総計５時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、５時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。
また、未完成者が完成者より得をするモラルハザードを防ぐために、完成原稿に問題があってもあえて修正・再提出を求めていません。レポート内には構造的に間違いが散在します。学生のレポートの質はこれまでよりもずっと落ちています。そのため、岩田が問題点に言及した「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
MRSAによる感染症に対してダプトマイシンでの治療中に耐性が獲得されるリスクはあるか
ダプトマイシン(DAP)はメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)を含むグラム陽性球菌に対する環状リポペプチド系抗菌薬で、MRSA感染による皮膚軟部組織感染や敗血症、右心系感染性心内膜炎の治療に用いられる。MRSA感染症では、症状によっては治療が4-6週間と長期に及ぶこともある。そこで、DAPでの治療中に耐性は獲得され得るのか調べてみた。
M.Sharma1）らは、2004年4月から2006年10月までに黄色ブドウ球菌による菌血症に対してDAPで2日以上治療を行った患者10人の、投薬前後での最小発育阻止濃度(MIC)を測定し、DAPの感受性の変化を評価している。DAPの感受性はCLSIガイドラインではMIC＜1μg/mlと定義されているが、90%の臨床的な黄色ブドウ球菌はMIC＜0.5μg/mlとされている。患者の投薬前のMICは0.125-0.5μg/mlであったのに対し、DAP投与後は6例で(5例では2μg/mlに、1例では4μg/mlに)上昇していた。また、MICの上昇はDAP投与後5-15日後と、投与開始から比較的短期間に出現し、長い間継続していた。さらに、MICが上昇した6人の患者から培養したMRSAのPFGE(pulse-field gel electrophoresis)バンドのパターンは、DAP投与の前後で一致しており、同一株であることが確認されている。一方で、検出された6検体のMRSAのPFGEバンドは1-3ヶ所のみで違いがみられ、DAPに対する耐性を獲得する何らかの共通の遺伝子を有している可能性が示唆される。
V.G.Fowler2）らは、黄色ブドウ球菌による菌血症を起こした患者のうち、124例(45例がMRSAによる菌血症)でDAP (6mg/kg/day)を投薬し、122例(44例がMRSAによる菌血症)でバンコマイシン(VCM)などの標準治療薬を投与してDAPの標準治療薬に対する非劣勢を前向きに評価した。論文の中では、菌血症の長期化や再発したものを微生物学的失敗と定義しており、DAP群で微生物学的失敗は19例認められた。その割合は標準治療群に比べ高かった。(p=0.17) また、DAPで治療された患者のうち7例でMICが上昇しており、7例のうち6例で微生物学的失敗が認められた。この6例のうち、5例ではMICが0.25μg/mlから2μg/mlに、1例では0.5μg/mlから4μg/mlに上昇していた。これらのことより、DAPの感受性の低下は微生物学的失敗と深く関連すると考えられる。
以上のことから、DAPの感受性はMRSAによる感染症への治療によってしばしば低下する。つまり、MRSAが治療中に耐性を獲得するリスクはあると考えられる。さらに、DAPの感受性の低下はMRSAによる感染症を長期化、再発させる可能性が高いため、治療の際DAPの感受性はよくモニターされるべきである。
参考文献
1)M.Sharm et al. High rate of decreasing daptomycin susceptibility during the treatment of persistent Staphylococcs aureus bacteremia, European Journal of Clinical Microbiology & Infectious Diseases 2008 vol.27 Issue6 433-437
2)Vance.G.Fowler et al. Daptomycin versus Standerd Therapy for Bacteremia and Endocarditis Caused by Staphylococcs aureus , The New England Journal of Medicine 2008 vol.35 no７
寸評：よくできているレポートです。感心しました。
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