注意！ これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
２０１６年７月１５日より、レポート提出のルールを変えています。学生に与えられたレポート作成時間は総計５時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、５時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。
また、未完成者が完成者より得をするモラルハザードを防ぐために、完成原稿に問題があってもあえて修正・再提出を求めていません。レポート内には構造的に間違いが散在します。学生のレポートの質はこれまでよりもずっと落ちています。そのため、岩田が問題点に言及した「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
感染性心内膜炎における外科的治療について、弁置換術と弁形成術ではその予後にどのような違いがあるのか
最近では感染性心内膜炎に対する外科手術は薬物療法に比して生存率を改善させることが示されており1)、活動期の感染性心内膜炎に対して積極的に外科治療が選択されるようになってきている。そこで今回は、外科的手法の弁置換術と弁形成術について、各手法によって治療成績及び患者の予後にどのような差があるのかについて調べた。
Mayerらは、2000年1月から2009年7月の間に大動脈弁における感染性心内膜炎の手術を受けた患者100人を対象に後ろ向き研究を行った2)。対象となった100人中33人が弁形成術、67人が弁置換術を受けた。その結果、5年生存率は弁形成術を受けた患者で88％であるのに対して弁置換術を受けた患者で65%であり、術後5年目に血栓塞栓イベントに見舞われていない割合は前者が100%であるのに対して後者は90%となった。大動脈弁形成術は置換術と比べてよりよい術後成績を示しており、大動脈弁の感染性心内膜炎において有力な選択肢であると考えられる。
またFeringaらによる僧房弁の感染性心内膜炎の外科的治療を受けた患者の予後を比較したメタ解析によると、弁形成術を受けた患者と弁置換術を受けた患者では、病院死亡、遠隔期死亡、再手術率、脳血管イベント発生率、遠隔期の感染性心内膜炎再燃率において、前者の方が後者よりも良い成績を得ている3)。この解析では合計470人の患者が僧帽弁形成術、724人の患者が弁置換術を受けており、4件以下の事例報告である場合、 僧帽弁形成または置換後の院内または長期経過観察データが提供されなかった場合、及び1995年1月以前のデータであった場合は除外されている。
一方三尖弁については、弁形成術と置換術とではその長期予後に有意差は認められないとする報告がされている4）。肺動脈弁に関しては、PubMed、UpToDate、書物で検索したものの参考に出来る文献を見つけることが出来なかった。感染性心内膜炎における肺動脈弁位のものの割合が他の三種類の弁位のものと比べて少ないためではないかと思われる。
以上より、感染性心内膜炎における外科的治療において弁置換術と弁形成術では後者の方がその予後は良いと考えられる。ただし弁形成術は病状の進行具合や病変の形状によっては行うことができないという点でセレクションバイアスがかかる可能性があることに注意すべきである。
参考文献
- Baddour L.M. et al : Infective Endocarditis : diagnosis, antimicrobial therapy, and management of complications : a statement for healthcare professionals from the Committee on Rheumatic Fever, Endocarditis, and Kawasaki Disease, Council on Cardiovascular Disease in the Young, and the Councils on Clinical Cardiology, Stroke, and Cardiovascular Surgery and Anesthesia, American Heart Association : endorsed by the Infectious Disease Society of America. Circulation 111 : e394-434, 2005.
- Katharina Mayer et al : Repair versus replacement of the aortic valve in active infective endocarditis : Eur J Cardiothorac Surg (2012) 42 (1) : 122-127
- Feringa HH et al : Mitral valve repair and replacement in endocarditis : a systematic review of literature. Ann Thorac Surg 83 : 564-570, 2007.
- Moraca RJ et al : Outcomes of tricuspid valve repair and replacement : a propensity analysis : Ann Thorac Surg 2009.
寸評：これもよくできたレポートでした。
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