はじめに、ここで転載します。みんな読んでね。
はじめに
子供の時の「将来の夢」は漫画家になることだった。藤子不二雄(当時)の「ドラえもん」が大好きで、ドラえもんもどきのキャラクターをわら半紙に書き、ホチキスで閉じて単行本を自作していたのが小2のときくらいだ。
夢とは実現しないから夢と呼ばれるのだと悟るには、そう時間はかからなかった。漫画家への夢は現実世界の中で急速にフェイドアウトし、夢もない成り行きの人生航路のなかで現在の自分がある。
本書は、ぼくが診療現場で遭遇したり、トピックにした微生物を解説した本である。
医学生の中でも微生物学は最も人気がない。大量の微生物を丸暗記する(そして試験の翌日に忘れる)無味乾燥なサブジェクトだと思われているからだ。
しかし、暗記力が極めて弱いぼくが感染症屋なのから容易に察せられるように、微生物学は決して暗記の学問ではない。そこには歴史があり、物語がある。人類との戦いがあり、(お互いの)勃興と挫折がある。微生物の学習はエキサイティングな営為なのだ。
もはやオタクは悪口ではない。オタクであることはよいことであり、多くの日本人は自分のオタクさを認め、そして肯定している。微生物はオタクなサイドストーリーに満ちている。
そして、石川雅之先生である。夢は敗れたが、代わりに「もやしもん」がぼくの夢を代行してくれた。そのイラストの素晴らしさは、本書の最大の売りである。よって、雑誌連載のままカラーで掲載することは企画会議でも譲らなかった。ぶっちゃけ、本文を読まずにマンガだけ読む読者もいるでしょうし、「そういう読み方」でもよいとぼくは思う。
連載母体(「メディカル朝日」)が突如消滅し、本連載も幕を引くことになった。幕を引いたから単行本化の話も出てきたので、創造と消滅は表裏一体の関係にある。世の中には無数の微生物がいて、その全てに「物語」がある。だからぼくには、許されるならば秋本治なみの長期連載だってできる自信はあったが、「まあ、このへんでやめておけ」という誠にまっとうな天の采配があったように感じられる。
本書出版を可能にしてくださった朝日新聞出版の岡本直里様、石川美香子様、井上和典様、石川雅之先生、そして地上海中の全ての微生物たちにお礼申し上げます。
コメント
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