注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
2016年7月15日より、レポート提出のルールを変えています。学生に与えられたレポート作成時間は総計5時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、5時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。
また、未完成者が完成者より得をするモラルハザードを防ぐために、完成原稿に問題があってもあえて修正・再提出を求めていません。レポート内には構造的に間違いが散在します。学生のレポートの質はこれまでよりもずっと落ちています。そのため、岩田が問題点に言及した「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
感染症内科BSLレポート
「ステロイド常用患者に対してCMV感染症の予防は必要か」
サイトメガロウイルス感染症は細胞性免疫不全の患者に日和見感染をきたす疾患である。細胞性免疫不全を引き起こす原因のひとつにステロイドの使用があるが、その投与量や期間、原因微生物の種類と多様な組み合わせがあり、個々の感染症について信頼できる予防のガイドラインがあるわけではない。(1しかしニューモシスチス肺炎や潜在結核、HBVについては予防方針が確立されている。そこで細胞性免疫不全患者にCMV感染症予防は必要ではないかと疑問に思った。今回はステロイド常用の膠原病患者に一次予防が必要かどうかを調査した。
MandelらのPRINCIPLES AND PRACTICE OF INFECTIOUS DISEASE(2を参照したところCMV感染症のリスクとして膠原病に対するステロイド使用があるが、ステロイド常用者のCMV感染症の一次予防についての記述はなく、Up To DateやPub med上にもステロイド常用者のCMV感染症の一次予防に関する研究は私の調べた範囲では存在しなかった。また、ステロイド常用患者に生じたCMV感染症のcase reportにおいても一次予防に関する記述は見つからなかった。そこで、Naro OHASHIらのcase reportでも指摘されているようにステロイド常用患者ではAIDSと同じくCD4+T細胞が傷害されている点と、Naro OHASHIらはCMV感染症に対してAIDSに準じた治療を行っていた点から、AIDSの予防方針を参考にすることとした。(3
MandelらのPRINCIPLES AND PRACTICE OF INFECTIOUS DISEASEやAIDS infoによるGuidelines for the Prevention and Treatment of Opportunistic Infections in HIV-Infected Adults and Adolescents(4ではプラセボ対照試験を根拠にガンシクロビルは一次予防に有用であるとされている。しかしAIDS infoはガンシクロビルの副作用や費用面から、実際にはあまり行われていないと指摘している。
ステロイド常用の膠原病患者においてもガンシクロビルの副作用や費用面の問題が生じるため、一次予防は行う必要性は少ないと考える。また、ステロイド常用の膠原病患者はステロイドを減量・中止することによって免疫状態が改善することが予想されるので、まずはステロイドの投薬計画を再考することが予防につながるのではないかと考える。
今回の調査ではステロイド常用の膠原病患者に対して一次予防が必要かどうかを直接評価することはできず、有用な情報を示すに至らなかった。テーマに即した文献を見つけられなかった最大の原因は、ステロイド常用患者はその投与量や期間はもちろんのこと、ステロイド以外の免疫抑制剤の使用やステロイド治療の対象になっている疾患がさまざまで、まとまったデータが存在していないためだと考える。実臨床においてはステロイド常用患者に対して経験的に対処している。今後ステロイド常用患者に対するCMV感染症の一次予防についての情報が蓄積され、研究されることが望ましい。
参考文献
(1 病院内/免疫不全関連感染症診療の考え方と進め方 医学書院
(2 Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases, 8th Edition
(3 Naro OHASHI Cytomegalovirus Colitis Following Immunosuppressive Therapy for Lupus Peritonitis and Lupus Nephritis Internal Medicine Vol. 42 (2003) No. 4 P 362-366
(4 AIDS info Guidelines for the Prevention and Treatment of Opportunistic Infections in HIV-Infected Adults and Adolescents
寸評:良いレポートです。案外、こういう分かってるようなことでも分からないものですね。日本では「思いつき」や「思い込み」の医療が流布していますが、ちゃんとデータを吟味し、きちんと患者の役に立っている医療ができているかどうかを検証する内省的態度が大事です。
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