注意！ これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員がスーパーバイズしています。そして本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。
２０１６年７月１５日より、レポート提出のルールを変えています。学生に与えられたレポート作成時間は総計５時間。月曜日に「質問形式」のテーマを考え、岩田が審査し、そのテーマが妥当と判断された時点からレポート作成スタート、５時間以内に作成できなければ未完成、完成して掲載レベルであればブログに掲載としています。
また、未完成者が完成者より得をするモラルハザードを防ぐために、完成原稿に問題があってもあえて修正・再提出を求めていません。レポート内には構造的に間違いが散在します。学生のレポートの質はこれまでよりもずっと落ちています。そのため、岩田が問題点に言及した「寸評」を加えています。
あくまでも学生レポートという目的のために作ったものですから、レポートの内容を臨床現場で「そのまま」応用するのは厳に慎んでください。
ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
整形外科手術におけるセメントスペーサー留置術で、SSIs予防のために抗菌薬を混ぜることは有効か？
整形外科領域における手術部位感染(SSIs)を予防する方法としてセファゾリン、クリンダマイシン、バンコマイシン、アミノグリコシド系といった抗菌薬の予防投与が一般的である1)。今回は人工関節置換などの手術でセメントスペーサー留置を行う場合に、抗菌薬をセメントに混ぜて使用することでSSIsを予防できるのではないかと考えたので、その有効性について調べた。
Chiuらにより行われた、1993年から2004年の間における全人工膝関節置換術(TKA)でバンコマイシン含有セメント(セメント40gあたりバンコマイシン1g)を用いた93例と抗菌薬を含まないセメントを用いた90例について術後の経過観察(平均:89ヶ月)を行い、深部感染発症率を調べた前向き研究では、術後の感染発症率が0% vs 6.7%(p値=0.013)と有意差が認められた2)。よって、この結果からは含有する抗菌薬としてバンコマイシンを用いた場合、抗菌薬を含まない場合と比較して術後の感染予防という点で有効であると考えられた。
一方、Pedroらにより、TKA2948例の内、抗菌薬としてエリスロマイシンとコリスチンを含むセメントを用いた1483例と抗菌薬を含まないセメントを用いた1465例を比較した前向きランダム化試験が行われた。その結果、術後の経過観察(平均:38か月)における深部感染発症率は1.4% vs 1.35% (p値=0.96)、表在感染発症率は1.8% vs 1.2%(p値=0.53)と抗菌薬含有の有無による術後感染発症率という点で有意な差は認められなかった3)。よって、この研究からは抗菌薬としてエリスロマイシンとコリスチンを含むセメントが必ずしも術後感染のリスクを下げるとはいえないと分かった。
以上より、抗菌薬含有セメントは使用する抗菌薬の種類により感染予防において有効な場合と必ずしも有効とはいえない場合があり、抗菌薬全体としての有効性において結論を出すことはできないといえる。また、他の理由として、今回調べた論文では、研究の中で想定されていた感染がSSIsを示すものかどうか不明である点、他のSSIs予防に用いられる抗菌薬は有効なのかという点、TKA以外のセメントスペーサー留置適応がある整形外科疾患で有効なのかという点で議論が不十分であったことが挙げられる。これには、抗菌薬含有セメントの感染予防に対する有効性について十分なランダム化試験が行われていないということも関係しているため、今後はこれらの点を含めた十分な研究や議論がなされた上で、抗菌薬含有セメントの有効性を判断する必要があると思われる。
【参考文献】
- Up to date: Deverick J Anderson, MD, MPH, Daniel J Sexton, MD
Antimicrobial prophylaxis for prevention of surgical site infection in adults
- Chiu FY1, Lin CF.： Antibiotic-impregnated cement in revision total knee arthroplasty. A prospective cohort study of one hundred and eighty-three knees.
J Bone Joint Surg Am. 2009 Mar 1;91(3):628-33.
- Hinarejos P, Guirro P, Leal J, Montserrat F, Pelfort X, Sorli ML, Horcajada JP, Puig L.: The use of erythromycin and colistin-loaded cement in total knee arthroplasty does not reduce the incidence of infection: a prospective randomized study in 3000 knees. J Bone Joint Surg Am. 2013 May 1;95(9):769-74.
寸評：スタディーを吟味するときは、まずそのスタディーのデザインをまっさきに確認しましょう。その習慣をつければレビューの質がぐっと上がります。
コメント