短腸症候群患者において、どの程度小腸が残存していれば経静脈栄養からの離脱が見込まれるか
短腸症候群(short bowel syndrome; SBS)とは何らかの理由で小腸の大部分を切除した際に起こる吸収不良状態を指す。栄養吸収が不十分である場合SBS患者ではしばしば経静脈栄養(以下PN; parenteral nutrition=腸管外栄養を同義として用いる)を行う。しかし、この時、カテーテルからの血管内感染や肝障害などの有害事象が問題となる。したがってSBS患者は可能なかぎり経口摂取のリハビリを行い、PNから離脱することが望まれる。PNからの離脱の可能性は残存小腸の長さ、残存する小腸の部位(空腸、回腸)、結腸と回盲弁の有無、腸管の吻合形態といった要因に関連するが、残存小腸の長さはその中でもPNからの離脱に強く相関すると考えられており、今回は残存小腸の長さとの関連を考察する。
成人における両者の関係に関するデータは限られているため、まず、参考として新生児発症における、規模が大きく調査形式の整った研究1)について述べる。アメリカにおけるこの研究は171人の新生児(調査開始時の平均年齢33.1 週 ± 4.6 週 ; range 23–40 週)SBS患者に対して行われた。平均フォローアップ期間は4.1年± 4.8 年 (range 66 日–24.3年) 。26人 (15.2%)が死亡し、110人(64.3%)がPNを離脱した。この研究ではそれぞれの患者のデータより想定された正常小腸長に対する残存小腸長割合をもとに、10%をPNからの離脱可能性が大きく変わるカットオフ値として提唱している。<10%では11.1%の患者がPNから離脱した一方で、≧10%ではその割合は74.8%となっている。このときp= 0.002であり、≧10%では離脱できた患者が有意に多い。
次に上海での38人のSBS患者(平均年齢38.0 ± 16.0歳、range 7-68歳)の経口栄養のリハビリ効果に関する研究2)を元に成人の場合について考える。この研究では残存小腸の長さによる比較は行われていないが、各患者について個々の残存小腸長、またその後の死亡、PNを離脱できたかについての転機が記載されているため、上記の新生児での研究を参考に統計処理を行い考察した。この研究では各患者の想定正常小腸長に対する残存小腸長の割合が記載されていないため、アジアの成人の小腸の長さは生体内で3m前後とされていることから、その10%にあたる30cmを中心に20cm,30cm,40cmをカットオフ値候補として設定した。この研究では調査終了まで生存した患者は33名であり、30cmをカットオフ値とすると、残存小腸長が<30の者は7人、≧30は26人である。このうちPNを離脱した者はそれぞれ、1人(14.3%),21人(80.8%)p=0.000445となる。20cmでは同じく0/4(0%),22/29(75.9%)p= 0.00170、40cmの場合11/20(55%),11/13(84.6%)p=0.0823である。
以上よりこの研究において、また私の考察において、集団の小ささや、治療の幅、設定した想定正常小腸長など不正確さは存在するが、残存小腸腸はPNの離脱可能性に強く相関しており、20cmまたは30cmをカットオフ値とするとPNからの離脱率に有意な差が存在し、成人でのPNからの離脱可能性を予測できるのではないかと考えられる。
(参考文献)
1)J Pediatr Surg. 2015 Jan;50(1):131-5. doi: 10.1016/j.jpedsurg.2014.10.011. Epub 2014Oct 26.
Enteral autonomy in pediatric short bowel syndrome: predictive factors one year after diagnosis.
Demehri FR, Stephens L, Herrman E, West B, Mehringer A, Arnold MA, Brown PI,Teitelbaum DH.
2)World J Gastroenterol. 2003 Nov;9(11):2601-4.
Effects of bowel rehabilitation and combined trophic therapy on intestinal adaptation in short bowel patients.
Wu GH, Wu ZH, Wu ZG.
寸評:論文のデータをもとに自分で統計解析してみた、という意欲と野心が素晴らしいです。エクセルを使っており、検定の選択も荒かったかもしれませんが、そういうことは今後少しずつ学んでいけばいいんです。自分でやってみることが大事です。完成度が高いレポートよりも、こういうレポートのほうが将来の成長が期待できる、とぼくは思ってます。
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