注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
腸腰筋膿瘍に対して保存的療法は有用か?
腸腰筋膿瘍は血行性、あるいは近接の腹腔内、骨盤内や近接した骨の感染からの波及から腸腰筋の中に膿瘍を形成する病態である。腸腰筋膿瘍に対しての標準的な治療は検出菌に対する抗菌薬投与と経皮的ドレナージ(PCD :Percutaneous Drainage)の併用とされている(1)。しかし、近年では抗菌スペクトラムが広く、強い抗菌作用を持ち、組織移行性が良好な抗菌薬の出現により、国内外で抗菌薬投与のみでの保存的治療の成功が報告されている(2,3,4)。そこで、腸腰筋膿瘍に対する保存的療法の有用性について、標準的治療(抗菌薬投与とPCDの併用)と比較し考察してみることとした。
スペインの11の医療施設で行われた124人の腸腰筋膿瘍患者を対象とした後ろ向き研究では、49人が抗菌薬投与とPCDにて、29人が保存的療法(抗菌薬投与のみ)にて治療され、治癒率はドレナージ群と保存的療法群で明らかな有意差は認められなかった(77.8% vs 80.6% p値=0.68)(5)。また、再発率においてもPCD群と保存的療法群で明らかな有意差は認められなかった(17.4% vs 11.1% p値=0.621)(5)。
アメリカの単一施設で行われた41人の腸腰筋膿瘍患者を対象とした後ろ向き研究では、26人が抗菌薬投与とPCDにて、15人が保存的療法(抗菌薬投与のみ)で治療され、再発率はPCD群と保存的療法群で明らかな有意差は見られなかった(15% vs 0% p値: 0.122)(6)。ただ、二群間において、膿瘍の最大径について有意差が認められ(mean 6cm vs 2cm p値<0.001)、保存的療法は比較的小さい膿瘍に対してより用いられていたことが分かった。さらに、別のstudyでも膿瘍の最大径が比較的小さい患者(P.Tabriziaらの報告では膿瘍の最大径が3.5cm未満(7))に対しては保存的療法が奏効すると報告されている。
結論として、保存的療法はPCDと同等の成績を示しつつも、膿瘍の最大径が小さい患者に対しての方がその有用性は高いと考えられる。つまり、膿瘍が小さい患者に対してはPCDの侵襲性も考慮すると保存的療法を行う有用性はあるが、膿瘍が大きい場合ではPCDに保存的療法が有用性において優れることはなく、標準的療法とされる抗菌薬投与とPCDを行うべきだと考えられる。ただし両研究は膿瘍の大きさを考慮した上で治療法別に予後が評価されておらず、今後は膿瘍の大きさに基づいて検証された質の高い研究が行われることが期待される。
Reference
- ハリソン内科学日本語版第3版 p946
- Take. Clinical study of iliopsoas abscess in 11cases from 2005 to 2008. The Journal of the Japanese Association for Infectious Diseases. 2009; 83:652-657
- Mario Fernandez Ruiz, et al. Iliopsoas abscess: therapeutic approach and outcome in a series of 35 patients. Elsevier Espana. 2011, 09, 016
- Van den Berge M, et al. Psoas abscess: report of a series and review of the literature. Neth J Med .2005; 63: 413-6
- Vicente Navarro Lopez, M.D, et al. Microbiology and outcome of Iliopsoas abscess in 124 patients. Medicine 2009; 88: 120-130
- Wael N. Yacoub, M.D, et al. Psoas abscess rarely requires surgical intervention. The American Journal of Surgery (2008) 196, 223-227
- Parissa Tabrizian, M.D, et al. Management and treatment of iliopsoas abscess. Arch Surg. 2009; 144(10):946-949
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