教科書は英語ですか?7
I「基本的に、良い教科書は「程度」の問題をきちんと扱っているんです。診断にしても、治療にしても」
M「程度問題ですか?」
I「そう、なんとか病ではこういう徴候が見られます、ではなく、それが何%に見られるのか。つまり感度の問題ですね。まあ、厳密に数字で書いていなかったとしても、その徴候がほぼ必発なのか、大多数に認められるのか、半数程度なのか、めったに見られないのか。そういう知識がなければ、構造的に病気を見逃してしまいます。
治療についても同様です。なんとか病はこうやって治療します、だけでなく、その治療で何%治るのか。ほぼ治るのか、ほとんど治らないのか。そういう「程度」の記載がなければ、医者は自分の患者の治療について正確な見通しを立てられません」
W「程度の記載がなく、ただ徴候や治療が羅列されているだけの「病気がみえる」では実臨床では使えないってことですか」
I「そうです。それだけではありません。例えば髄膜炎のエンピリカルな治療を「病気がみえる」では「第三世代セフェムとアンピシリンを併用」と書いてありますが、三世代セフェム耐性菌による髄膜炎も存在するので、バンコマイシンも併用するのが妥当なエンピリック治療です。これは単純に間違った記載です」
W「なるほど」
I「加えて、細菌性髄膜炎最大の原因菌は肺炎球菌ですが、肺炎球菌治療のセクションで、「病気がみえる」では肺炎球菌感染症の治療薬をペニシリンGとしています。それはいいのですが、「高度耐性菌や髄膜炎合併例症例ではカルバペネム系などを用いる」と書いています」
W「あれ?髄膜炎は第三世代セフェムとペニシリン(それとバンコマイシン)なのでは?」
I「でしょ。本の中で書いてあることにズレがあるんです。髄膜炎の所ではセフェムとペニシリンと書いてあり、肺炎球菌のところでは髄膜炎でカルバペネムと書いていて、「どっちなんだよ」と思いますよね」
M「どっちが正しいんですか」
I「ハリソン読んでみましょう。例えば、高齢者(55歳以上)の髄膜炎では、
ampicilin + cefotaxime, ceftriaxone, or cefepime + vancomycin
とあります」
W「I先生のおっしゃるとおりですね」
I「私は突飛なことばかり言っているようで、ちゃんと教科書的な記載を大切にしているんです」
M「でも、言ってることの6割は突飛ですけどね」
ちなみに、日本で見つかる肺炎球菌の5%程度はカルバペネム耐性です。5%ってことは20人にひとりですからちっとも珍しくありません。我々もケースレポート書いてます。肺炎球菌にカルバペネムは必要ない、ではありません。肺炎球菌にカルバペネムは「使ってはならない」なのです。
Doi A, Iwata K, Takegawa H, Miki K, Sono Y, Nishioka H, et al. Community-acquired pneumonia caused by carbapenem-resistant Streptococcus pneumoniae: re-examining its prevention and treatment. Int J Gen Med. 2014;7:253–7.
Community acquired pneumoniaは市中肺炎、caused by は「〜によっておきる」、carbapenem-resistantは「カルバペネム耐性」、Streptococcus pneumoniaeは「肺炎球菌」です。
M「Streptococcus pneumoniaeは検査の紙でよく見ますね」
I「そうそう、感染対策者は菌名を見慣れてますから、実は横文字に親和性が高いんです。しかも、生物の名前は基本ラテン語ですから、英語よりずっと難しい(私も医学生1年のときに少し勉強して、すぐ断念しました)」
M「ラテン語ってテルマエ・ロマエのあれですか?」
W「上戸彩、可愛いですよね」
M「阿部寛、かっこいいよね」
英語は難しくありません。少しずつ学んでいきましょう。
今日のポイント
・教科書は「程度」が記載されているものを
・菌名はラテン語。感染対策者は実は横文字には慣れている。
今日学んだ単語:community acquired pneumonia, caused by, carbapenem, resistant
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