注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
緑膿菌菌血症の治療で多剤併用は単剤投与より治療効果がみられるのか
緑膿菌は、院内発症の菌血症などで問題になることが多い(1)。JAID/JSC感染治療ガイドラインによると、緑膿菌菌血症には抗緑膿菌作用のあるペニシリンや第3世代以上のセフェム系薬、カルバペネム系薬、ニューキノロン系薬を投与することが推奨されている(2)。また、緑膿菌に対する前述の抗菌薬への感受性率が低下していた場合には、有効な抗菌薬を適切に選択しなければならない。そのため緑膿菌のハイリスク患者や重症感染症では、Empiric therapyの時点から多剤併用が適応となることがある(3)。はたして多剤併用では治療効果は高まるのか、疑問に思ったので調べてみた。
緑膿菌に対する抗菌薬の多剤併用についてのin vitro研究で、シプロフロキサシンやトロバフロキサシンのフルオロキノロン系薬の単剤投与とそれらに第4世代セフェム系薬であるセフェピムを加えた2剤併用では、得られる殺菌効果にあまり差はみられなかった(4)。
Yangmin Huらは10の研究(うち8つが後ろ向き研究、2つが前向き研究)から緑膿菌菌血症の患者1239人をメタ解析した。結果、多剤併用(βラクタム系+アミノグリコシド系またはキノロン系)と単剤投与(主にβラクタム)で患者の死亡率に大きな差はみられなかった(OR 0.89, 95% CI 0.57–1.40; P = 0.614)(5)。
Carmen Peñaらは緑膿菌菌血症の患者593人を対象に前向きコホート研究した。結果、Definitive therapyで多剤併用の患者群と単剤投与の患者群でも30日死亡率に差は見られなかった(補正ハザード比[以下AHR] 1.34, 95% CI 0.73–2.47; P =0 .35)。 なお、この研究ではEmpiric therapyについても検討されているが、その場合においても感受性があった抗菌薬による多剤併用群と単剤併用群ともに30日死亡率に差はなかった一方で、適切でない抗菌薬によるEmpiric therapyでは30日死亡率のリスクが高い傾向にあった(AHR 1.70; 95% CI 0.99–2.92; P =0 .052) (6)。
これらのことから考察すると、緑膿菌菌血症患者に対するEmpiric therapyでは院内のアンチバイオグラムの感受性率を参考にした上で抗菌薬を選択し、さらに重症患者においては多剤併用が必要となる場合がある。しかし、感受性がある抗菌薬による多剤併用治療と単剤治療では死亡率に差が見られなかったことから、感受性が判明すれば単剤治療を行うべきである。
参考文献
1) 青木眞 レジデントのための感染症診療マニュアル 第3版
2) JAID/JSC感染治療ガイドライン
3) UpToDate “Principles of antimicrobial therapy of Pseudomonas aeruginosa infections.”
4) McNabb J, et al. Comparison of the Bactericidal Activity of Trovafloxacin and Ciprofloxacin, Alone and in Combination with Cefepime, against Pseudomonas aeruginosa. Chemotherapy, 2000 Nov-Dec;46(6):383-9.
5) Hu Y, et al. Combination antibiotic therapy versus monotherapy for Pseudomonas aeruginosa bacteraemia: a meta-analysis of retrospective and prospective studies. Int J Antimicrob Agents. 2013 Dec;42(6):492-6.
6) Carmen Peña, et al. Effect of Adequate Single-Drug vs Combination Antimicrobial Therapy on Mortality in Pseudomonas aeruginosa Bloodstream Infections: A Post Hoc Analysis of a Prospective Cohort. Clin Infect Dis. 2013 Jul;57(2):208-16
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