注意！ これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、（我々には若干異論があったとしても）あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
Extended Spectrum β-Lactamase (ESBL) 産生菌に対してセフメタゾール (CMZ) は有効か
ESBLとは基質特異性拡張型βラクタマーゼの略称で、ペニシリンなどのβラクタム環を持つ抗生物質を分解する酵素である。このESBLは、 Klebsiella pneumoniaeや Escherichia coliなどが保有する伝達性プラスミド (Rプラスミド) 上にコードされているため、同菌種間や、 K.pneumoniae から E.coli というように、腸内細菌科の異なる菌種間に伝達される。そのため日本におけるESBL産生菌の報告は増加しており、その治療薬も重要度が増してきている。現在、ESBL産生菌感染症に対する第1選択薬は、メロペネムなどのカルバペネム系であるとされている（1）。 しかし、カルバペネム耐性菌の出現リスクを考えると、ESBL産生菌感染症に対して有効なカルバペネム系以外の抗菌薬を早急に確立する必要があり、in vitroでセフメタゾールはESBL産生菌に対する感受性を持つことから(1)、実臨床におけるセフメタゾールのESBL産生菌感染症に対する有効性について調べてみた。
ESBL産生菌による尿路感染症に対するカルバペネム系とセフメタゾールによる治療を比較したレポートでは、セフメタゾールで治療された１０人とカルバペネム系で治療された１２人の後ろ向き比較試験がなされており、臨床的治癒率において両者に有意差はなく(9/10 vs. 12/12, p = 0.46)、細菌学的治癒率にも両者に有意差はない(5/7 vs. 6/7, p = 1.00)と結論付けられていた。また薬物副作用についても両者に有意差はなかったとされている(2/10 vs. 2/12, p = 1.00)。(2)
ESBL産生菌感染症に対してセフメタゾールもしくはフロモキセフを使用した場合の治療成績(A群)とカルバペネム系を使用した場合の治療成績(B群)の比較されたレポートでは、A群が59人で、セフメタゾールを使用された例は29人であり、奏効率は98・3%であった。また、B群が54人で奏効率92.6%であった報告されている。セフメタゾール使用例の単独の奏効率は記載されていなかったが、A群において治療が奏効しなかったのは1人だけで、その1人がセフメタゾール使用例だった場合、セフメタゾールの奏効率は96.5%で、その1人がフロモキセフであった場合、セフメタゾールの奏効率は100%である。血液系腫瘍や好中球減少症を除外した場合は両者に有意差はなかったとされており(3)、セフメタゾールはESBL産生菌感染症に対して、カルバペネム系と同等の奏効率であったと言える。
カルバペネム耐性菌の出現リスクを考えると、ESBL産生菌感染症に対する治療の第一選択であるというだけでカルバペネム系の投与を継続することは短慮といえよう。薬剤耐性菌の出現リスクを軽減するためにも、起因菌を同定し、その薬剤感受性検査結果に応じた狭域スペクトラムの抗菌薬を適正に使用することが望まれる。セフメタゾールの使用は、その選択肢の1つになりえると考える。
Reference
(1) Uptodate,Extended-spectrum beta-lactamases
(2) Asako Doi, The efficacy of cefmetazole against pyelonephritis caused by extended-spectrum beta-lactamase-producing Enterobacteriaceae, International Journal of Infectious Diseases 17 (2013) e159–e163
(3) Yasufumi Matsumura, Multicenter Retrospective Study of Cefmetazole and Flomoxef for Treatment of Extended-Spectrum- -Lactamase-Producing Escherichia coli Bacteremia, Antimicrob. Agents Chemother. September 2015 vol. 59 no. 9 5107-5113
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