注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
腹腔内感染症に対しての抗菌薬投与期間は臨床症状の改善によらず限定してよいか
腹腔内感染症は正常な解剖学的バリアの破綻によって、通常では無菌である腹腔内に病原体が侵入することによって生じる(1)。その治療としては抗菌薬投与、ドレナージや外科手術があげられる。抗菌薬投与期間については、IDSAのガイドラインを参照すると、2003年度版(2)では体温や白血球数、消化器の機能の正常化などの臨床症状が改善するまでは継続されるべきであるとなっていたが、2009年の改訂版(3)では適切に感染巣のコントロールが行われるのであれば4~7日までに限定されるべきであるとされている(B-Ⅲ)。実際に感染巣のコントロールが得られれば、抗菌薬投与期間は臨床症状の改善によらず限定してよいかを検討してみた。
Sawyerらによる腹腔内感染症に対する抗菌薬短期間投与について調べたRCT(2)では、腹腔内感染症で適切な感染巣のコントロールが得られている16歳以上の患者518人を調査している。感染巣のコントロールが得られてから4±1日間と固定して抗菌薬を投与した患者257人と、対照群として発熱、白血球増加、イレウスの改善が見られてから2±1日後まで、最大10日間抗菌薬を投与した患者260人を比較した。結果は1次アウトカムであるSSI、腹腔内感染の再発、感染巣コントロール後30日以内の死亡は抗菌薬4±1日間投与群で56人(21.8%)、コントロール群で58人(22.3%)であり有意差がなかった(absolute difference, -0.5%: 95%CI, -7.0 to 8.0, p=0.92)。感染巣コントロール後30日以内の死亡数のみを比較しても抗菌薬4±1日間投与群3人(1.2%)、対照群2人(0.8%)と有意差はなかった(absolute difference, 0.4%: 95%CI, -1.7 to 2.7, p=0.99)。2次アウトカムでは、抗菌薬投与期間は、抗菌薬4±1日間投与群で中央値4日、コントロール群で中央値8日であり、有意に短縮された(absolute difference, -4.0日: 95%CI, -4.7 to -3.3, p<0.001)。また、その後の感染症の発生率には有意差がなかった。
以上より、腹腔内感染症において感染巣のコントロールが得られている場合は4±1日間と固定して抗菌薬を投与した場合と、発熱、白血球増加、イレウスの改善が見られるまで延長したより長期間にした場合のアウトカムは死亡率を含めて同様である。ゆえに、抗菌薬投与の期間は臨床症状の改善によらず限定してもよいといえる。しかし、この論文では、発生部位や起炎菌によって1次アウトカムに差があるかどうかは調べられていないため、すべての腹腔内感染症について同様の結果を得られるかは示されていない。今後発生部位や起炎菌ごとの抗菌薬投与期間についての研究がなされるべきであると考える。
- Miriam J. Baron, Dennis L. Kasper, Intraabdominal Infections and Abscesses; Harrison’s principles of Internal Medicine, 846-852, 19th, McGraw hill Medical, 2015
- Solomkin JS, et al, Guidelines for the selection of anti-infective agents for complicated intra-abdominal infections; Clin Infect Dis. 2003 Oct 15; 37(8):997-1005.
- Solomkin JS, et al, Diagnosis and management of complicated intra-abdominal infection in adults and children: guidelines by the Surgical Infection Society and the Infectious Diseases Society of America. Surg Infect (Larchmt). 2010 Feb; 11(1):79-109.
- Sawyer RG, et al, Trial of short-course antimicrobial therapy for intraabdominal infection; N Engl J Med. 2015 May 21; 372(21):1996-2005.
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。