注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
ブドウ球菌による人工血管感染治療にリファンピシンは有効か?
人工血管置換術後の人工血管感染症(Prosthetic vascular graft infections:PVGI)は0.5〜6%に見られるが、大動脈人工血管感染における死亡率は24〜75%、5年生存率はわずか50%と重篤な疾患である(1)。起因菌としては黄色ブドウ球菌、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌、グラム陰性桿菌、真菌、嫌気性菌などが存在し、黄色ブドウ球菌が30%、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌が33%を占める(1)。PVGIにおいて、細菌は人工血管に付着するとバイオフィルムを形成し、貪食細胞や抗体による菌排除作用から免れることが知られている(2)。一方、リファンピシン(RIF)はバイオフィルムに浸透する能力が高いとされており、人工物感染、骨髄炎に対して他の抗菌薬との併用効果が期待されている(3)。ブドウ球菌によるPVGI治療におけるRIFの有効性を調べた。
Legoutら(4) はブドウ球菌属が原因となり治療を受けたPVGI患者200人のうち、治療後少なくとも1年間のフォローが可能であった84人について、前向き観察コホート研究で治療失敗に関連した因子を検討した。治療後少なくとも1年間のフォロー中に感染が認められなかった患者を治療成功患者と定義した。84人中で初期治療として手術が行われた患者は68人(自家静脈グラフト再建12例、同種間動脈グラフト再建24例、人工血管グラフト再建8例、デブリードマン24例)であった。経験的抗菌薬治療には感染の原因菌が判明するまでの期間に広域スペクトラムβラクタム系抗菌薬(ピペラシン/タゾバクタム、セフェピム/メトロニダゾールなど)と抗MRSA薬(バンコマイシン39例、ダプトマイシン13例、テイコプラニン11例、リネゾリド5例、その他16例)が用いられ、それに加えてアミノグリコシド系抗菌薬が用いられた例もあった。PVGIの原因菌と薬剤感受性が判明すると、RIFを含め感受性のある薬剤による治療が行われた。従来の抗菌薬に併用してRIFが用いられた患者は45人であり、併用された他の抗菌薬の内訳はフルオロキノロン24例、ST合剤8例、flucloxacillin 4例、フルオロキノロン+ST合剤2例、ダプトマイシン1例、フルオロキノロン+リネゾリド1例、テイコプラニン1例、フルオロキノロン+イミペネム1例、fucidic acid 1例、フルオロキノロン+フルコナゾール1例、ST合剤+セフトリアキソン1例であった。RIFが用いられなかった患者は39人であった。その結果、RIFを用いた場合の治療成功患者は38人、治療失敗患者は7人、RIFを用いなかった場合の治療成功患者は25人、治療失敗患者は14人であり、統計学的に有意差が見られた(p=0.03)。多変量解析では、RIFの使用によりRIF不使用例と比較して良い治療成績が得られることが示された(OR 0.32: CI 95% 0.10-0.96; p=0.04)。
以上の結果から、ブドウ球菌によるPVGI治療においてRIFを使用することで良い治療成績が得られた。しかし、今回の研究では人工血管置換部位、手術における術式、RIF以外に使用された抗菌薬は様々で、これらの違いが結果に与えた影響については検討されていないため、RIFの使用については慎重に検討すべきであると考える。現在RIF使用の有無に関するランダム化比較試験など大規模試験は存在しないため、今後実施する必要があると考える。
- Mandell, Douglas, and Bennett’s Principles and Practice of Infectious Disease Eight Edition
- 社団法人 日本感染症学会 感染症専門医テキスト
- 青木 眞 感染症診療マニュアル第3版
- Legout et al.; Factors predictive of treatment failure in staphylococcal prosthetic vascular graft infections: a prospective observational cohort study: impact of rifampin. BMC Infectious Disease 2014 14: 228.
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