献本御礼
毎年夏に行われているIDATENサマーセミナーは市中感染を対象としたセミナーだ。人気のプログラムなので参加できない人も多いという。近年の知見を追加してずっと分厚くなってその「実況中継」が帰ってきた。
執筆者は日本の若手感染症医の精鋭たちによるものだ。奇をてらわない、実にオーソドックスな内容だが、それゆえにというべきか、これまでの日本感染症界であまり実践されてこなかった「基本」がちゃんとまとめられている。これが基本である。
もちろん、診療のあり方は多様だから本書をそのまんま真似る必要は必ずしもない。しかし、本書のようなプラクティカルでかつベーシックな本を読んでおき、「なぜ私はこの本のようにしないのか」をきちんと説明できるようなリーズニングは学んでおいたほうがよいと思う。医療のプラクティスはつまるところリーズニングである。自分が、そして他人が納得するような根拠でそのプラクティスが行われていれば、それでよい。派閥や、党派性で意思決定するのはご法度だ。
感染症医の中には「IDATENの言うことだけは聞いてはいけない」みたいな党派性バリバリのコメントを講演でしてしまう人もいると聞く。たとえ、そういう人物の言葉であっても、ちゃんと言葉そのものは聞くべきだ。人物ではなく、その口の語る内容を吟味すべきなのだから。「○○先生がこんなことを言ってましたがどう思いますか」という類の質問をよく受けるが、別になんとも思わない。ただ、感染症の吟味を政治化してはならず、その目線はつねに患者の方を向いているべきだ、とは申し上げておきたい。
対話を打ち切らないこと、自分が変化することを拒まないこと、自分の頭で考える事こそが、サイエンスであり、医療である。上司の命令を唯々諾々と従うのが若手医師のあるべき生き方ではない。上司の言葉を無視して耳を閉ざすのも、もちろんだめだ。
本書の執筆者のなかには岩田のもとで修行を体験した人物もいるし、現在神戸大に所属する者もいる。しかし、そのコンテンツはオリジナルなものであり、決して彼らはぼくの言葉を追随しているわけではない。ときにはそれに反していることすらある。本来、そうあるべきなのである。
対話を継続すること、他者の言葉に耳を傾けること、患者の方を向き続けること。こういう「原則」を崩さなければ、本書をそのまま受け入れようと、そうでない判断をとろうと、そう大きな問題ではない。そしてその結果生まれた判断は、どちらをとってもさしたる違いではない、という事実に気がつくだろう。controversial issueとは常に「微妙な違い」なのだから。
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