注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
心臓血管手術での手術部位感染予防のための抗菌薬選択について
手術部位感染症 (Surgical site infection: SSI) は皮膚などに元々存在した細菌が、手術により組織内に押し込まれて生じる。心臓血管手術ではほとんどのSSIは体表面ものである(1)が、グラフト感染や縦隔炎などその後の治療や予後に大きな影響を与えることもある。しかし、術前•術中の抗菌薬の予防投与によりSSIのリスクを減らすことができるとされている(2)。
では心臓血管手術に対してどのような抗菌薬を選択すべきか。
Maureenらによる7つのランダム化比較試験のメタアナリシスでは、5761人の心臓手術をうける患者にグリコペプチド系抗菌薬 (バンコマイシン、テイコプラニン) もしくはβラクタム系抗菌薬 (セファゾリン、セファマンドール、セフトリアキソン、セフロキシム、フルクロキサシリン+トプラマイシン) を術前予防投与し、30日間でのSSIの発生率を調べた。グリコペプチド系抗菌薬を投与された郡は、βラクタム系抗菌薬を投与された郡に対してSSIの発生頻度で有為差を認めなかったが (risk ratio [RR], 1.14; 95% confidence interval [CI] , 0.91-1.42) 、胸部のSSIの発生頻度はグリコペプチド系抗菌薬を投与された郡の方が高かった (RR, 1.47; 95% CI, 1.11-1.95) 。逆にメチシリン耐性のグラム陽性菌によるSSIの発生頻度は低かった (RR, 0.54; 95% CI, 0.33-0.90) 。
1980年~1981年にthe University Hospital of Zurichで行われたランダム化比較試験では、16歳以上で心臓血管手術をするβ-ラクタム剤アレルギーのない患者にセファゾリン (n=281) もしくはセフロキシム (n=285) を術前予防投与したところ、SSIの発生頻度はそれぞれ2.5% (n=7) 、1.1% (n=3) (P=0.3) と有為差は認めなかった(4)。また1984年~1987年に同じ病院で同じ条件の患者に対してセファゾリン (n=439) もしくはセフトリアキソン (n=444) を術前予防投与したところ、SSIの発生頻度はそれぞれ0.4% (n=2) 、1.3% (n=6) (P=0.2) と有為な差は認められなかった(4)。世代の違うセフィム系抗菌薬ではSSIの発生頻度に差がないという結果になった。
セフィム系抗菌薬は第1世代から第3世代と世代が新しくなるにつれ、グラム陰性菌のカバーが改善され、グラム陽性菌のカバーは低下する。心臓血管手術でのSSIのうち、約3分の2ではS. aureusを含むグラム陽性菌が分離される(1)ので、そのカバーを考えて第1世代のセファゾリンがより適切であるといえる。また2014年1月での代表的薬価はセファゾリン、セフォチアム、セフトリアキソン、バンコマイシンでそれぞれ358円、576円、527円、2899円 (すべて0.5 g 静注用) (5)であり、セファゾリンが最も安い。
以上より、心臓血管手術のSSI予防にはセファゾリンが最適であると考える。ただし、MRSAが広くみられる施設やMRSA保菌者の手術においてはvancomycinの投与を検討する(1)。
参考文献
1 Deverick J Anderson, et al. Antimicrobial prophylaxis for prevention of surgical site infection in adults. Up To Date. Aug 01, 2014 (last updated)
2 Kreter B, Woods M. Antibiotic prophylaxis for cardiothoracic operations. Meta-analysis of thirty years of clinical trials. J Thorac Cardiovasc Surg 1992; 590-599
3 Maureen K, et al. Glycopeptides Are No More Effective than β-Lactam Agents for Prevention of Surgical Site Infection after Cardiac Surgery: A Meta-analysis. Clinical Infectious Diseases 2004; 38: 1357-63
4 Kriaras I, et al. Evolution of antimicrobial prophylaxis in cardiovascular surgery. European Journal of Cardio-thoracic Surgery 2000; 18: 440-446
5 今日の治療薬 2014/南江堂/浦部晶夫他/2014年1月出版
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