注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
カテーテル挿入部位におけるカテーテル関連血流感染症(CRBSI)のリスクについて
ICUなどで重篤なCRBSIを生じる最大の原因は中心静脈カテーテルである。米国では年間に中心静脈カテーテル関連の血流感染症が25万件生じていると推定されている(1)。中心静脈カテーテルの挿入部位は鎖骨下静脈、内頚静脈、また大腿静脈があるが、国立大学医学部付属病院感染対策協議会のガイドラインでは、カテーテル挿入部位は鎖骨下静脈を第一選択とするべきである(カテゴリーAⅡ)とされている(2)。今回は部位別にその有用性を比較してみる。
2001年、フランスでMerrer Jらによって行われた前向きランダム化比較試験では、289人の患者を対象として、そのうち145人が大腿静脈に、144人が鎖骨下静脈に中心静脈カテーテルが挿入された。調査の結果、大腿静脈に挿入した場合の方が、感染性の合併症を起こす割合が高く(19.8%vs4.5%;P<0.001)、血栓性の合併症を起こす割合も高くなることがわかった(21.5%vs1.9%;P<0.001)(3)。
また、鎖骨下静脈と比較して内頚静脈の方がカテーテルのコロニー形成率および感染率が有意に高くなるという研究結果がある。これは、ドレッシングによる固定が難しいことが関連している可能性がある。よって感染予防の点においては内頚静脈より鎖骨下静脈の方が好ましいとされている(2)。
しかし、2012年にMarix PEらによって発表されたCRBSIの危険因子に関するsystematic reviewによると、最近の研究では3つの挿入部位において有意な差はみられないとされている(4)。2005年Deshpandeらによって行われた後ろ向き観察研究では、657人の中心静脈カテーテルが挿入された患者を対象として、部位別に感染の発生率が調査された。その結果、カテーテルを1ヶ所に挿入した患者群では、鎖骨下(0.881/1000カテーテル日)、内頸(0/1000)、大腿(2.98/1000)となった。またカテーテルを複数箇所に挿入された患者群では、3つの部位で有意な差はみられなかった(5)。
Marix PEらによるsystematic reviewでは、比較的古い年代の研究において、挿入部位として鎖骨下静脈を第一選択とするべきであり、大腿静脈を最も避けるべきであるといわれている(4)。その一方で、最近の研究では3部位において有意な差は見られないとされている。この差の原因として、感染予防技術の進歩だけではなく試験のデザインの差も考えられる。統計学的操作によって本来あるはずの差がなくなってしまった可能性があるからだ。したがって今回調べた内容からは感染のリスクは鎖骨下静脈が最も低く、大腿静脈が最も高いと考えるのが妥当と思われる。
<参考文献>
(1)レジデントのための感染症診療マニュル第3版 青木眞
(2)国立大学医学部付属病院感染対策協議会病院感染対策ガイドライン第3版
(3)Merrer J, De Jonghe B, Golliot F, et al. Complications of femoral and subclavian venous catheterization in critically ill patients: a randomized controlled trial. JAMA 2001; 286:700–7.
(4) Marix PE,Flemmer M, et al. The risk of catheter-related bloodstream infection with femoral venous catheters as compared to subclavian and internal jugular venous catheters: a systematic review of the literature and meta-analysis.Crit Care Med.2012 Aug;40(8):2479-85.
(5) Deshpande KS, Hatem C, Ulrich HL, Currie BP, Aldrich TK, Bryan-Brown CW, et al. The incidence of infectious complications of central venous catheters at the subclavian, internal jugular, and femoral sites in an intensive care unit population. Crit Care Med 2005;33:13–20.
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