注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
Vancomycinは現在もMRSA血流感染症の治療薬の第一選択として妥当か
現在使用されているIDSAのMRSA感染症のガイドライン(1)では、MIC≦2.0μg/mLをvancomycin感受性の範囲とし、MRSA血流感染症では、感受性の範囲内でも患者に臨床的及び細菌学的反応がない場合にdaptomycinへの変更を考慮するべきだとしている。実際にvancomycinのMICが高めの場合にはtreatment failureが多いことが報告されている。
1996-2011年に行われたvancomycinのMICに関連する治療成績や死亡率についての研究を分析したメタアナリシス(2)では、MIC≧1.5μg/mLではtreatment failureが多かった。感染源やMICの測定方法に関わりなく、vancomycinのMIC≧1.5 μg/mLは著明にMRSA感染による死亡率と相関しており(odds ratio, 1.64; 95% confidence interval, 1.14–2.37; P < .01)、死亡は主に血流感染症によるものだった。vancomycin治療効果の予測にもっとも優れた薬理学的指標であるAUC/MIC >400を達成するためには、トラフ値を高く設定する必要があり、腎毒性などの副作用が増えることも懸念される。
一方、vancomycinは使用開始されて40年たって初めて耐性が出現し始めたが、daptomycinは使用開始してすぐに耐性が報告されており、耐性を獲得しやすい可能性がある (3)。
また、MRSA血流感染症に対してvancomycinよりもdaptomycinが有効性と安全性において明らかに優れている、というエビデンスは検索した範囲内では見つからなかった。現在進行中の研究としては、2014年から、血液培養でvancomycinのMIC≧1.5 ug/mlのMRSA陽性の21歳以上の入院患者50人を対象に、vancomycin治療群とdaptomycin治療群で1:1に分け、最短14日間の治療を行い2年間追跡調査する多施設前向き非盲験PhaseⅡBパイロットランダム化比較試験がある(4)。
今後このような研究がさらに大規模に進められ、daptomycinのvancomycinに対する優位性が証明されれば、MRSAの第一選択薬が変更されるかもしれない。daptomycinがvancmycinより優れているというエビデンスのない現状では、vancomycinをMRSA治療の第一選択として使うことは妥当だと考えられる。
(1)Liu C,Bayer A,Cosgrove SE,et al
Clinical practice guidelines by the Infectious Diseases Society of America for the treatment of methicillin-resistant Staphylococcus aureus infections in adults and children. Clin Infect Dis 2011;52:e18-55.
(2)van Hal SJ,Lodise TP,Paterson DL
The clinical significance of vancomycin minimum inhibitory concentration in Staphylococcus aureus infections: a systematic review and meta-analysis. Clin Infect Dis 2012;54:755-71.
(3) Talbot GH, Bradley J, Edwards JE, Jr., Gilbert D, Scheld M, Bartlett JG. Bad bugs need drugs: an update on the development pipeline from the Antimicrobial Availability Task Force of the Infectious Diseases Society of America.
Clin Infect Dis 2006; 42:657–68.
(4) Kalimuddin S, Phillips R, Gandhi M, de Souza NN, Low JG, Archuleta S, Lye D, Tan TT1.
Trials. 2014 Jun 19;15:233. doi: 10.1186/1745-6215-15-233.
Vancomycin versus daptomycin for the treatment of methicillin-resistant Staphylococcus aureus bacteremia due to isolates with high vancomycin minimum inhibitory concentrations: study protocol for a phase IIB randomized controlled trial.
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