〈高齢者の特徴〉
高齢者は長期間、複数の疾患を併発していることが多い。その治療のために様々な薬剤を使用しており、相互作用やアドヒアランスを考慮する必要がある。また腎排泄が低下しているため、薬剤の排泄が遅延し低血糖を起こす危険性が高く、それにより認知機能の障害や転倒のリスクが高まる。そしてこれらの特徴は患者個人によって程度が大きく異なるため注意しなければならない。
〈血糖コントロールの目標〉
従来は年齢に関わらずHbA1c<7%とされている。しかし、2008年に発表されたACCORD studyでは心血管疾患のリスクが高い2型糖尿病の患者では血糖値を厳格にコントロール(目標HbA1c<6.0%)した群よりも通常のコントロール(目標HbA1c7.0%~7.9%)をした群の方が死亡率が低いことが報告された。厳格なコントロールは低血糖のリスクを上昇させるためであると考えられている。これに基づき、併存症のある高齢者や余命10年以下の高齢者にはHbA1c≦8%を目標としてもよいと現時点では考えられる。
〈治療〉
①非薬物療法
糖尿病治療においてまず考えなければならないのは生活習慣の改善である。肥満のある場合は体重を減らすことにより、インスリン抵抗性が改善され良好な血糖コントロールが得られる。体重を減らすには、脂質制限と炭水化物の制限を行うのが良いとされている。また、患者個人に合わせて栄養を決める食事療法により、3~6ヶ月間でHbA1cが0.25~2.9%低下する。高齢者は食事療法などのプログラムに反応がよく、推奨される。
②薬物療法 ”start low and go slow”
薬剤名 |
メリット |
デメリット |
メトホルミン |
低血糖リスク少ない 安価 |
乳酸アシドーシス(eGFR≦30mL/minには使わない)、消化器症状 |
短時間作用型SU薬 |
作用が速い |
低血糖 |
チアゾリジン系 |
低血糖リスク少ない 腎機能に関わらず使用可 |
体重増加、浮腫、心不全 |
DPP-4阻害薬 |
低血糖リスク少ない |
高価、長期の安全性が不明 |
インスリン |
作用が強い、速い |
低血糖、体重増加 手技が特殊(自己注射) |
〈考察〉
高齢者の血糖値のコントロールにおいては低血糖のリスクに特に注意しなければならない。HbA1cの目標は若年者よりも寛容でよいと考える。また治療の選択においてもそれを考慮しなければならない。まずはじめに食事療法をはじめとする生活習慣の改善を行うが、独居や家族の協力が得られないなど困難な場合もある。そのような場合や良好なコントロールが得られない場合に、薬剤療法を行う。薬剤の選択は表の上から順に検討していく。第一選択はメトホルミンであるが、腎機能が悪い場合などは使用できない。短時間作用型SU薬は食前に服用するので食事が不規則な患者に有用である。チアゾリジン系は肝臓で代謝されるため腎機能が悪い患者でも使用できる。DPP-4阻害薬は低血糖のリスクがほぼないという利点があるが、作用はメトホルミンより弱く薬価が高いために他の薬に優先して使用はしない。インスリンは血糖値を下げる効果は大きいが低血糖の危険性も高く、手技も特殊なので、使用にあたっては患者の病気に対する理解や家族の支援を考慮する必要がある。
参考文献:Up To Date “treatment of type 2 diabetes mellitus in the elderly patient” (last updated: 5 13, 2013)
American Diabetes Association. Standards of Medical Care in Diabetes-2013. Diabetes Care. 2013 Jan;36 Suppl 1:S11-66.
M. Sue Kirkman, Vanessa Jones Briscoe, et al, Diabetes in Older Adults: A Consensus Report. Diabetes Care 2012 Dec;35:2650-2664.
Ali A. Rizvi. Manegement of Diabetes in Older Adults. The American Journal of The Medical Sciences. 2007 Jan;333(1):35-47.
Action to Control Cardiovascular Risk in Diabetes Study Group, Gerstein HC, et al. Effects of intensive glucose lowering in type 2 diabetes. N Engl J Med 2008; 358:2545.
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