尿培養でMRSAが検出された場合
l 無症候性細菌尿(ABU)、膀胱炎、前立腺炎、腎盂腎炎といった尿路感染症の診断において尿培養で細菌を検出することが”gold standard”となっている。尿路感染症の原因菌としては大腸菌などのグラム陰性桿菌が大多数を占め、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が尿路感染症の原因となることは(特に単純性尿路感染症では)稀である1), 2)。
l MRSAが尿培養で検出される場合は以下の場合が考えられる。
- 検体にMRSAが混入した場合
- 尿路感染症に関係の無いMRSA細菌尿が存在する場合
- MRSA尿路感染症による細菌尿である場合
1.については尿路に関係する症状がなくコロニー形成単位数CFU countsが高値で明らかな白血球尿が無い場合や急性単純性膀胱炎と診断された患者からMRSAが分離されたときに考慮する。治療は不要である。
2.について、①抗菌薬投与による菌交代現象、②菌血症による腎を介した二次性の細菌尿が考えられる。①の場合、治療は不要である。②の場合は菌血症かどうかわからない場合は除外する必要がある。
3.について。尿路感染症は無症候性細菌尿(ABU)と症候性尿路感染症に分けられる。ABUは、尿路感染症の症状が全く無いことかつ尿培養で105 CSF/ml以上の菌が女性:2回連続、男性:1回、または尿道カテーテル採取で102 CSF/ml以上の菌が検出されたものを指すが、治療の適応となるのは妊婦と尿路の処置・外科手術予定の症例に限られる3)。 「MRSAによる症候性尿路感染症は、尿からMRSAが104 CFU/mL以上(有意菌数)分離され、さらに、排尿痛、下腹部痛、尿路に起因する発熱などの症状と、鏡検または尿自動分析装置による膿尿の存在により診断される。」3)とあるが、例えば排尿痛は尿道炎や膣炎などでも見られ、尿路外の炎症性病変(例:虫垂炎、骨盤内腫瘍、腸腰筋膿瘍)では尿中白血球が上昇することがあるなど、「ABU+何らかの疾患」と「症候性尿路感染症そのもの」との鑑別は難しいことがある。MRSA尿路感染症に対する抗MRSA薬での治療の評価やそもそもの治療の必要性についても十分な評価・検証がなされているとは言えない。
参考文献・資料
1). Harrison's Principles of Internal Medicine, 18th Edition: Urinary Tract Infections, Pyelonephritis, and Prostatitis, pp2387-2395
2). 松本哲朗, 濱砂良一, 石川清仁, 他: 尿路感染症主要原因菌の各種抗菌薬に対する感受性。日化療会誌 2010; 58: 466-82
3). MRSA感染症の治療ガイドライン: 『尿路感染症』 日本感染症学会 2013: pp.68-71
4). “第Ⅶ章 尿路・泌尿器関連感染症”. 青木眞 著. レジデントのための感染症診療マニュアル 第2版, 医学書院, 2009, pp.547-584
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