注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階 で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだ け寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために 作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際に は必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jp まで
慢性骨盤痛(chronic pelvic pain)について
慢性骨盤痛は骨盤領域の痛み、不快感、尿路学的な症状を示すが男女でやや趣が異なる
原因\要素 |
病歴、身体診察、心理学的評価で可能性をあげる要素 |
下げる要素 |
産科的 |
・月経困難・仙骨子宮靭帯の異常、子宮頚部の変位・触診できる付属器の肥大・肥大or不整な子宮・頚部を動かしたときの子宮、付属器の圧痛・付属器の腫瘤 |
初経前の痛み |
胃消化管的 |
・腹痛・腹痛と付随する体重変化・吐き気、嘔吐 |
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尿路学的 |
・尿意で増悪する痛み・放散性の圧痛・尿道下痛、恥骨上痛 |
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筋骨格的 |
・鋭く位置がはっきりした痛み・妊娠中、出産後の痛み・カーネット兆候陽性 |
鈍く位置が特定できない痛み |
心理学的 |
・過去、現在における鬱、性的、身体的虐待、DVの存在 |
鬱、性的、身体的虐待、DV無し |
神経学的 |
・焼けるような,電気ショックのような痛み、感覚異常 |
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Ⅰ、女性の慢性骨盤痛・・女性の慢性骨盤痛症とは、臍よりも下の下腹部、骨盤領域に起こる、少なくとも六ヶ月以上続く痛みで、その程度が、機能障害を引き起こし治療が必要になるほど重症のものを言い、その病因は様々である。診断は病歴聴取、身体診察、心理学的評価が大きな柱であり、その他の検査は補助的、補強的に用いる。治療については、その原因(またはその原因の予測)に応じた治療をするか、原因に関わらず痛みを抑える手法がとられる
*その他の検査・・・臨床検査(血算、尿検査、クラミジアと淋病の検査、妊娠検査)、骨盤エコー検査、膀胱鏡検査
☆頻度の高い主な原因疾患に対する治療
・子宮内膜症・・・NSAIDs、経口避妊薬、腹腔鏡手術、GnRHアナログ
・筋膜性疼痛症・・・身体的治療(アイシング、ストレッチ、超音波)、発痛点注射、局所麻酔パッチ、針治療
・過敏性腸症群・・・症状の緩和が主。食事の適正化、生活習慣の改善、ストレス因子の特定、抗コリン薬や止瀉薬
・間質性膀胱炎・・症状緩和とQOL改善。アミトリプチリンが第一選択
・骨盤内炎症疾患(PID)・・・可能性のある病原に対する広域カバーの抗生物質投与
☆非特定的療法
温熱療法、低用量の三環系抗鬱薬、集学的治療(心理的カウンセリング、針治療、経皮的電気的神経刺激)
Ⅱ、男性の骨盤痛・・男性における慢性骨盤痛症(CPPS)は、NIHの分類で慢性前立腺炎(CP)と併記され同じ分類になっている。尿路学的症状、骨盤内の痛みと不快感を基盤とする臨床症候群であり、前立腺炎という言葉を使ってはいるもののどの程度が前立腺が原因の症状であるのか定かではない。CP/CPPSの臨床的症状は、会陰、下腹部、睾丸、陰茎の痛みと射精に伴う痛み、膀胱刺激や排出口の障害といった排尿困難を含み、精液に血が見られることもある。似た症状の慢性細菌性前立腺炎との鑑別では、両者はともに頻尿、排尿障害、会陰痛などの症状を起こしうるが、CP/CPPSでは慢性細菌性前立腺炎で起こりうる微熱はみられず、直腸診において見られうる前立腺の肥大、浮腫もCP/CPPSでは見られない。現在、正式に受け入れられている治療法は存在しないが、メタ分析によると、αブロッカーと抗生物質の併用が今のところ最も効果が高い。
参考文献 uptodate 'evaluation of chronic pelvic pain in woman ver8' 'treatment of chronic pelvic pain in woman ver9' 'Management of interstitial cystitis/bladder pain syndrome ver10 ''Treatment of irritable bowel syndrome ver21' 'treatment of pelvic inflammatory disease ver15' 'chronic prostatitis/chronic pelvis pain syndrome ver10' ハリソン内科学第三版
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