コンサルテーションについて、もう少し述べておく。
コンサルテーションはプロである医者が、医者に対して意見を求めるという営為である。したがって、普通の患者が医者に意見を求める場(診療現場)よりも質問は難解で困難なことが多い。病理学者はドクターズ・ドクターと言われるが、コンサルタントにも同じような役割が求められるわけだ。UpToDateや各ガイドラインくらいなら、どの医者だって(その気になれば)読める。「それ以上」の価値をコンサルタントは提供しなければならない。片手間のやっつけ仕事ではダメなのである。
コンサルタントの目指すところは、頼ってきてくれた主治医が満足できる回答やオルタナティブやコンティンジェンシープランを提供することにある。「やっぱりあの先生を呼んでおいてよかった。また何かあったら相談しよう」と思っていただくことにある。自分一人で診療するより、感染症屋を呼んだほうが楽じゃん、と思っていただくことにある。例えば、外科の先生から術後の感染症について相談されれば、できるだけ主治医が楽になれるようぼくらは一所懸命お手伝いする。一度、うちの後期研修医が敗血症の患者を数時間放置していたことがあった。「主治医がオペ中で何も出来なかった」というのが理由である。ふざけてはいけない。すぐにオペ場に連絡して「先生の患者さんがいまセプシスなんで、もし差し支えなければ、こちらで培養なんかの検査をして、すぐに抗菌薬始めていいですか」と問えば良いだけだ。まともな(患者のアウトカムを自分のプライドに優先させる)外科医なら「絶対に」断らない。本当に必要なんだかどうだか怪しい検査を専門化のエゴをむき出しに山のように「オーダーしておけ」と要求して主治医の仕事を(そして患者のストレスを)むやみに増やすコンサルタントは、「最低」である。consultantではなく、insultantである。
しかし、コンサルタントの「真に」目指すところは患者のアウトカムである。主治医でないが、主治医観は持たねばならないのである。よりメンタルには厳しい要求がなされているのである。主治医を指名されて主治医をやるのは当たり前だ。主治医でないのに、主治医と同じようなエンパシーを保つのは大変だ。感染症ばかり見て、クレアチニンが微増しているのを無視していたり、栄養状態がほったらかしだったり、患者が帰宅を希望しているのに「点滴4週間」とカルテに書き捨てていてはいけないのである。
ときに、主治医の希望と患者のアウトカムは合致しないこともある。CRP1を0にしたいという主治医がいる。この主治医の希望にのって、無意味な抗菌薬を使えば、患者を余計な入院延長、余計な抗菌薬曝露と副作用や耐性菌などのリスクに晒す。主治医の思いを理解するのは大切だが、主治医の太鼓持ちになってはいけない。コミュニケーションスキルは重要だが、単なる聞き上手、お話上手でもダメである。
残念ながら日本では感染症治療は「ついで」に行うものだったので、多くの医者は間違った感染症治療の「経験値」だけが蓄積されている。その経験値が、「おれは感染症ぐらいできる」という幻想を生んでいる。経験値は貴重だが、意味のない経験値はときに有害である。「かぜにフロモックス」が典型だ。
とくに、このような間違った経験値が蓄積されやすい呼吸器内科医、泌尿器科医、血液内科医には要注意である。まあ、日本はよくも悪くも各専門家のレベルにばらつきがあり、本当にきちんと勉強している先生ももちろんたくさんいる。でも、えてして各先生の専門は「がん」のようなトピックなことがおおく、「感染症」はついでのトピックで、「感染症」を真に専門に訓練された医師は少ない。時に「感染症」がメインの先生もいるが、製薬業界に近づきすぎてかえって危ういこともある。学会のランチョンで「なんとか感染症について。○○マイシンを中心に」みたいなタイトルで講演している「専門家」には要注意である。こういう陥穽をソートアウトして、ようやく本当に臨床感染症を理解し、勉強し、訓練を受けたドクターに遭遇できる。もちろん、そういう先生はいる。そういう先生がみなさんのそばにいることを、切に願ってやまない。
CRP1を0にする必要はないんですよ、というメッセージを、相手のプライドや思い(思い込み)を勘案しながら、上手に伝えるのも非常に困難な、しかし大切な仕事である。あくまで最優先は患者の利益であるが、ここで下手をすると、「未来の患者」を閉ざしてしまう。今の患者へのベストなケアを保証しつつ、次回もコンサルトを呼んでもらえるためには、アクロバティックなスキルと情熱を必要とする。このスキルを身につけるために、後期研修医は毎日必死に研鑽する。このようなハイレベルのスキルを身につけなければ、まともなコンサルテーションは出来ない。コンサルテーションなんて俺の業務の足を引っ張る邪魔な存在だ、とイヤイヤやっている輩は、正直コンサルタントにはなってほしくないのである。コンサルテーションなめんなよ、と申し上げたいのである。
コンサルテーションには診療報酬はつかない。ここは問題である。できれば、近年でてきた加算のしくみを改善して、コンサルテーション業務に診療加算を足して欲しいとは思っている。でも、アメリカのようにコンサルテーションフィーはつけないほうがよい。アメリカはあれで、何でもかんでもコンサルト、呼ばれる方もシンプルなコンサルトにホイホイのるようになり、お互いのプラクティスの質を下げてしまった。訴訟のリスクがこの悪しき流れに油を注している。古典的な日本診療のように「全部俺がやる」ではだめだが、アメリカみたいに「なんでもコンサルト」でもだめだ。コンサルトが5人以上になると、たいてい患者に苦痛が及ぶ。ポリコンサルトはポリファーマシーくらいに始末が悪い。
とはいえ、「金が貰えないから、まともにやる気が起きない」は最低である。プロフェッショナルなのだから、金の入る入らない関係なしに、患者の利益のためにベストを尽くすべきなのである。やるからには、ベストを尽くすべきなのだ。飛行機の中で患者が出て、「診療報酬つかないしな」と手抜きをするだろうか。もしする、という先生があなたなら、すぐに職替えをおすすめしたいのである、ほんと。
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