注意! これは神戸大学病院医学部5年生が提出した感染症内科臨床実習時の課題レポートです。内容は教員が吟味し、医学生レベルで合格の域に達した段階で、本人に許可を得て署名を外してブログに掲載しています。内容の妥当性については教員が責任を有していますが、学生の私見やロジックについてはできるだけ寛容でありたいとの思いから、(我々には若干異論があったとしても)あえて彼らの見解を尊重した部分もあります。あくまでもレポートという目的のために作ったものですから、臨床現場への「そのまま」の応用は厳に慎んでください。また、本ブログをお読みの方が患者・患者関係者の場合は、本内容の利用の際には必ず主治医に相談してください。ご不明な点がありましたらブログ管理人までお問い合わせください。kiwataアットmed.kobe-u.ac.jpまで
[定義]転換性障害(conversion disorder)とは、中枢神経系あるいは末梢神経系について現代の解剖学や生理学の概念では説明がつかないような身体機能の障害のことである。1)
[症状]随意運動または感覚機能の欠損に関するもの、例えば、触覚または痛覚の消失、歩行異常、失声、難聴、または擬似癲癇などがある。1)2)ただし、身体化障害と違い一つの症状が中心となる。3)これらの症状は意図的に作り出され、演じられたものではないという点で詐病とは異なる。2)精神分析的理論によれば、転換性障害は無意識な内的葛藤の抑圧によるものであり、不安が身体症状へと転換したものである。1)症状は禁じられた願望や強い衝動の表出を一部許容し、その結果患者は、受け入れがたい衝動意識に直面する必要がなくなる。1)つまり、転換性障害の症状は無意識的葛藤と象徴的関係を持っている。
[疫学]転換性障害の発病者の多くは女性で、年齢は一般に小児期後期から成人早期にかけて、発生率は一般人口10万人あたり、11~500人の範囲を示している4)。一般病院の20-25%の患者が転換性の症状を持っていると推定され、5%が転換性障害の基準を完全に満たしており、神経内科の患者ではより増加するという報告もある。5)
[診断]転換性障害の診断は大変難しい。臨床医は、神経症状の原因と心理的要因の十分な関連を見出し、かつその症状は虚偽性障害などの結果でないことを判断しなければならない。1)また、診断基準によれば、症状が疼痛や性機能障害に限られている場合や、他の精神疾患で説明される場合は除外される。4)しかし、解剖学的および生理学的知識は不完全なものであり、客観的評価に用いられる方法は限られている。広範な神経疾患が転換性障害と誤診されているので5)、この診断は定期的に再評価されるべきである。
[治療]複数の医療従事者が転換性障害に関与するということを考えると、治療する臨床医間の意思疎通が、一貫した治療を続けるために必要となってくる。その他にも、転換性障害が疑われる患者にはなるべく過度の検査を控える、うつ病などの精神合併症に注意することなどが挙げられる。5)催眠や抗不安薬、行動的リラクゼーション(弛緩)法は、症例によっては有効である。1)転換性障害の患者の大部分は数週間以内に治癒するが、20〜25%は一年以内に再発してしまう。
[考察]私たちは、原因不明の神経症状を持つ患者を安易に転換性障害と診断してはいけない。なぜならば、無意識的に未知のものに対する逃げ道としてそれを使用してしまう可能性があるからである。現代の医療の発展は、転換性障害の誤診を防ぐことに少なからず繋がっているだろう。そして、私たちは誤診を防ぐために細心の注意を払い常に疑いを持って診断にあたるべきである。
1)カプラン臨床精神医学テキスト第2版 2) Harrison's Principles of Internal Medicine, 18edition
3)Somatization: Epidemiology, pathogenesis, clinical features, medical evaluation, and diagnosis
4)DSM-IV-TR 精神疾患の診断統計マニュアル 改訂版
5)CMAJ. 2011 May 17;183(8):915-20. Epub 2011 Apr 18.Conversion disorder: advances in our understanding.:Feinstein A.
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