難しいテーマに取り組んでもらいました。がんばりましたね。
Crohn病とHIVの合併において免疫再構築症候群(IRIS)はあるのか?
HIV感染において、抗HIV治療(highly Active-Antiretroviral Therapy:HAART)を開始すると、HIV RNA量が低下しCD4数の上昇がみられ、HIVによって低下した免疫機能が回復する。この過程において、もともと存在していた未治療または治療不完全な日和見感染症が悪化するという、一見矛盾した現象が起こる。このような現象を免疫再構築症候群immune reconstitution inflammatory syndrome(IRIS)といわれている。現時点では明確な定義はされていない。IRISが報告されている疾患は多くあり、大きくわけて感染症と非感染症がある。頻度や重症度は感染症の種類によって異なり、その罹患率が多いほど報告数も多い。中でも結核とクリプトコックス症がもっとも多い。[1] その他日和見感染症のほか、非感染性疾患では自己免疫疾患(関節リウマチ[2]、SLE[3])が報告されている。
Crohn病は消化管すべての部位で起こる全層性の炎症性腸疾患である。病態生理については不明なところが多いが、何らかの遺伝的素因に環境因子が加わり過剰な免疫反応が惹起されて炎症が起こる、多因子性疾患と考えられている。Crohn病では、抗原の侵入によって粘膜に存在するCD4+T細胞がTh1型に活性化され炎症性サイトカイン(IFN-γ)を産生し、腸管炎症を引き起こすといわれている。また炎症抑制性サイトカインを産生するT細胞の関与もあると考えられている。[4,5]
HIV感染Crohn病患者におけるIRISそのものに焦点をあてた報告は、残念ながら探すことができなかったが、しかしHIVとCrohn病の合併症例に関する論文は多く存在し、ほとんどがHIV感染後の免疫抑制がCrohn病の寛解時期を長くさせるという意見が多いようである。
Nikos らの研究[6]では、HIV感染IBD(炎症性腸疾患inflammatory bowel disease)患者はHIV非感染IBD患者と比較して(CD4数中央値:HIV+IBD患者616個/μL IBD患者1218個/μL)、HIV感染後のIBD悪化はHIV非感染群と比較して、再燃までの期間に統計的優位差があり、HIV感染IBD患者には再燃者がみられなかった。
D.Pospai らの研究[7]では、Crohn病の活動性が高かった4人の患者がHIV感染しAIDSで死亡するまでの経過が観察されているが、HIV感染時からはCrohn病が鎮静化し再発はなかったと報告している。しかし、この4人中HIVに対する治療(ジドブジン)がされていたのは1人であった。
これらのレポートからCD4減少、もしくはHIV感染そのものがCrohn病の活動性を下げる可能性があることが示唆される。
しかし、HAART開始後のCrohn病の病勢(治療の有無を含めた)とCD4数、virus量などの詳細な観察や比較、またCrohn病とIRISといった観点での研究報告は数少なく、IRISに関してあるともないとも言えないのが現状であろう。またこれはCrohn病のIRISの定義を、何の所見をもって決定するかによっても変わるだろう。IRISが生じるか否かを判断するには、これからのIRISとCrohn病といった観点からの研究集積が必要だと思われる。
【参考文献】
Harrison’s Principles of Internal Medicine
[1]Immune reconstitution inflammatory syndrome (IRIS): review of common infectious manifestations and treatment options. Murdoch DM et al. AIDS Res Ther. 2007,4;9
[2] A case of immune reconstitution rheumatoid arthritis. Bell C, Nelson M, Kaye S. Int J STD AIDS. 2002;13:580–581. [3] Highly active antiretroviral therapy. Behrens G, Knuth C, Schedel I, Mendila M, Schmidt RE.Lancet. 1998 ;351:1057–8;author reply 1058-9.
[4] The key role of macrophages in the immunopathogenesis of inflammatory bowel disease. Mahida YR. Inflamm Bowel Dis. 2000 Feb;6(1):21-33.
[5] A short-term study of chimeric monoclonal antibody cA2 to tumor necrosis factor alpha for Crohn's disease. Crohn's Disease cA2 Study Group. Targan SR, N Engl J Med. 1997 Oct 9;337(15):1029-35.
[6] Course of Inflammatory Bowel Disease in Patients Infected with Human Immunodeficiency Virus. Nikos Viazis, et al. Inflamm Bowel Dis Vol.16 Number 3,Mar 2010
[7] Crohn’s Disease Stable Remmision After Human Immunodeficiency Virus Infection. D.Pospai, Digestive Disease and Science Vol.43 No.2 (Feb.1998)
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