ときどきこういうのも復習しておくとよいですね。髄液検査でクロール測るのはそろそろ止めましょうね。
髄液検査
髄液検査の項目とその解釈について、主に髄膜炎を中心にまとめた。
<髄液検査>
適応:髄膜炎、脳炎など炎症性疾患、くも膜下出血、Guillain-Barre症候群、末梢神経疾患、多発性硬化症、脊髄ブロックをきたす疾患、変性疾患、代謝中毒疾患
禁忌:頭蓋内圧亢進症状、穿刺部に感染のあるとき、患者の心理状態に問題のあるとき、出血傾向の強いとき
検査前にCTを取った方がよい場合:免疫不全者、中枢神経に関する既往歴、意識レベルが低下している人、一週間以内にてんかんの発作を起こした人、
乳頭うっ血のある人、神経障害のある人
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肉眼所見 |
初圧(mmHg) |
総蛋白(mg/dl) |
IgG(mg/dl) |
糖(mg/dl) |
細胞数(/mm3) |
基準値 |
透明 |
70~180 |
10~45 |
0.8~4.1 |
50~80 |
0~5 リンパ球 |
ウイルス性髄膜炎 |
透明~軽度濁り |
正常~多少増加 |
↑ |
↑ |
± |
10~1000 リンパ球(初期は多核球多し) |
ウイルス性脳炎 |
透明 |
多少増加 |
↑ |
|
± |
10~200 リンパ球 |
細菌性髄膜炎 |
軽度濁り~膿状 |
上昇 |
↑↑ |
↑ |
↓↓ |
1000~5000~稀に10000 多核球 |
真菌性髄膜炎 |
透明~軽度濁り |
上昇のことが多い |
↑↑ |
↑ |
↓ |
稀に20~50~300~稀に500 リンパ球 |
結核性髄膜炎 |
透明~軽度濁り |
上昇のことが多い |
↑↑ |
↑ |
↓ |
稀に20~50~300~稀に500 リンパ球 |
脳膿瘍 |
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上昇 |
↑↑ |
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± |
0~500 リンパ球と多核球 |
硬膜外膿瘍 |
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正常~多少増加 |
↑ |
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± |
0~200 リンパ球 |
硬膜下膿瘍 |
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多少増加 |
↑ |
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± |
10~1000 多核球 |
ギランバレー症候群 |
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↑↑ |
↑ |
± |
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クモ膜下出血 |
血性、キサントクロミー |
上昇 |
↑↑↑ |
↑ |
↓ |
白血球:赤血球比が末梢血と同じ |
脳腫瘍 |
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±~↑ |
±~↑ |
±~↓ |
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クモ膜下腔閉塞 |
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↑↑↑ |
±~↑ |
± |
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神経梅毒 |
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↑ |
↑ |
± |
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(レジデントのための感染症診察マニュアル改変)
※1)マイコプラズマ、くも膜下出血、髄膜のサルコイドーシス、グリオーマ、癌の転移、一部のウイルス性髄膜炎(ムンプス、エンテロウイルス、リンパ球性脈絡髄膜炎、ヘルペス)でも糖の値は下がることがある。糖の下がる原因は神経組織の糖代謝の変化、白血球の糖の利用の変化、中枢神経系の糖の移送の変化などのためとされる。
※2)細菌性でもウイルス性でも急性期には多核球が増加している。細菌性でも治療が奏功すると好中球優位からリンパ球優位になる。逆に結核性の場合、治療が奏功するとリンパ球優位が多核球優位になることもある。グラム染色で微生物が確認できることは細菌性髄膜炎に決定的だが、微生物が確認できないことで細菌性髄膜炎を否定してはならない。
上記の表のように所見をまとめてみたが、診断するには、オーバーラップが非常に多い。そのために、これらの細胞数や化学的データのみに依存せず、病歴、微生物学的検査(塗抹、培養、PCR、 血清ウイルス抗体価 など)、髄液での一般検査(細胞数、生化学)、特殊な生化学検査(ADAなど)、画像所見(CT、X線、MRIなど)を総合的に判断して診断を行うことが重要である。
<特殊な検査項目>
細菌性髄膜炎:細菌抗原検査は迅速で抗菌薬が投与されていても検出できるが、対象が限られ耐性菌の判別が不可能な点である。(細菌性髄膜炎の診療ガイドライン、日本神経感染症学会)髄液のグラム染色の感度は60~90%、特異度100%、血液培養では感度は50~90%である。(up to date)
結核:アデノシンデアミナーゼADAは、カットオフ値;8~10U/lで感度44~48%、特異度75~100%(レジデントのための感染症診察マニュアル)である。PCR は、感度が低いが特異度は高く、塗沫検査は感度が低いが一回当たりの髄液採取量を多くし、頻回に検査を行うと感度が上がる。抗酸菌の培養に関しては時間がかかるため迅速診断にはPCRのほうが有効である。
梅毒:髄液VDRLは特異性が、FTA-ABS(梅毒トレポネーマ蛍光抗体吸収テスト)は感度が高い。
真菌性髄膜炎:免疫不全者に多く、小児ではカンジダ、成人ではクリプトコッカスが原因菌として多い。確定診断には髄液の培養による真菌の検出が必要であるが、時間がかかるため迅速診断にはPCR法が有用である。
CMV:DNA、RT-PCRも感度、特異度ともによい。
ヘルペス:確定診断には単純ヘルペスウイルス、水痘・帯状疱疹PCRによる検出か抗体価の有意な上昇が必要となる。HSV-PCRの感度は98%、特異度は94~100%であるが、発症直後の1~2日では偽陰性になることがあり、注意が必要である。(レジデントのための感染症診察マニュアル)
ギランバレー症候群:細胞数正常で蛋白増加している。これを蛋白細胞解離状態という。これは、血液脳関門が破壊され、多くの蛋白が血中より髄液に移行するためである。有用とされるその他の検査として血清の自己抗体の検出、末梢神経生理学検査などがある。
癌性髄膜炎:細胞診が有効な時がある。10~15mlの髄液で迅速診断できる。(up to date)
最後に侵襲性の高い髄液検査にも、感度、特異度が高くない検査あり、身体所見などにより検査前確率を上げることが重要である。また細菌性髄膜炎など緊急を要する疾患について治療が診断より急がれるなど、感度、特異度だけでなく髄液検査を行うタイミングとその結果の解釈に注意が必要である。
[参考文献] レジデントのための感染症診察マニュアル
感染症: 亜急性硬化性全脳炎、進行風疹性全脳炎、急性ウイルス性脳炎や髄膜炎、神経梅毒、AIDSなど
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原因 |
肉眼所見(透明) |
*細菌性・・・混濁、膿性 |
初圧(70~180nnHg) |
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蛋白定量 (15~45mg/dl) |
髄液蛋白は各種中枢神経疾患で上昇し、特に細菌性髄膜炎、結核性髄膜炎、真菌性髄膜炎の増悪期や、ギラン・ バレー症候群などで高値を示す。 |
通常、髄液糖は血糖値の60~80%に維持されており、その値はあくまでも血糖値に左右される。髄液糖を評価する際は常に血糖値を参考にし、対比する必要がある。髄液糖が低下する代表的な疾患として細菌性髄膜炎、結核性髄膜炎、真菌性髄膜炎、悪性腫瘍の髄膜浸潤などが挙げられ、これは髄液腔で増加した病原微生物や好中球による嫌気性解糖作用、あるいは血液脳関門の破壊による糖移送能障害が原因である。 |
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細胞数(0~5/mm3) |
*増加・・・髄膜炎、脳炎、ムンプス・麻疹脳炎、頭蓋内出血など
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細胞種類(リンパ球 60~70% , 単球様細胞 20~30%、多形核細胞 2~3%) |
*リンパ球増加・・・ウイルス性髄膜炎、慢性炎症 組織球:大型でN/C 比が小さく、細胞質には小空砲やヘモジデリンの貪食を認めることがある。赤血球片やヘモジデリンを認めれば髄液腔内での出血を証明できる。出血や炎症、その他物理的刺激で反応性に動員され、出現機序は単球と同様である。 |
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赤血球が多いときには脳や脊髄のどこかで出血、白血球が多いときには化膿性髄膜炎、 |
LD |
細菌性髄膜炎では著しく増加した好中球由来のLD4、LD5 が上昇し、そのためLD 値が高くなる。しかし、ウイルス性髄膜炎であっても髄液中にリンパ球が著名に増加した例ではリンパ球由来のLD2、LD3 が上昇し、髄液LD が上昇を示すことがあるので注意する。また、腫瘍性疾患や中枢神経組織の破壊が生じた場合も髄液LD が増加する |
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pH 【髄液検査】 |
Cl |
髄液中のCl は血中Cl に由来し、血中より15~20mEq/l高値を示す。この差はDonnan平衡ならびに髄液と血液間に存在する電位差により生じるとされ、髄液Cl は血中Cl 値の変動に従い増減する。髄液の蛋白が上昇するとDonnan 平衡に抵抗が加わり、そのぶん髄液Cl は低下する。たとえば細菌性髄膜炎など髄液蛋白が著名に増加する例ではおのずと髄液Cl は減少する。すなわち、髄液Cl は髄液蛋白量を間接的に見ているに過ぎない。かつて結核性髄膜炎で髄液Cl が特異的に低下するとの報告がなされたことがあるが、のちにこれは結核性髄膜炎に生じる低クロール血症が原因であることが明らかにされた。 |
CK(6U/l以下) |
髄液中CK は血中CK と独立して変動し、髄液蛋白量の影響もほとんど受けない。髄液中で検出されるのはほとんどが脳由来のCK-BB である。液中のCKが上昇する疾患には脳挫傷、髄膜脳炎、脳腫瘍、脳血管障害、多発性硬化症などが挙げられ、その上昇は脳組織の荒廃に由来すると考えられる。髄膜炎症例において、重症例や脳炎に波及 する例では細菌性、ウイルス性を問わず髄液CK の上昇を示すとされている。 |
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比重 【髄液検査】 |
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。LDH(乳酸脱水水素)の値が高いと、がんが疑われます |
- 臨床検査ガイド(文光堂)3.髄液の生化学検査。Medical Technology 2003;31(5)
特に髄液一
般検査は早急な治療を必要とする髄膜炎・脳炎の診断や治療経過の観察のために欠くことのできない検
査法である。だが、日常検査の中での髄液は検査件数や症例数が血液や尿と比較して非常に少ないとい
う宿命的なハンディを持つことも事実である。
髄液巡回速度の違いにより腰椎では髄液が濃縮されるためと考えられる。また、ドレナージ髄液には
医原的原因により脳組織片や脈絡層細胞の混入をみとめることが少なくない。これらに臨床的出現意
義はないが、病的な所見と誤認しないように注意する必要がある。ドレナージ髄液の採取は頭部皮下
の貯留槽(リザーバー)より行う。廃液バック中の髄液は細胞が変性融解し、二次的な雑菌の増生を
認め、検体として使用できない。
2. 髄液採取後は迅速に対応する
髄液は2~3本の滅菌スピッツに分けて採取し、そのうちの最初に採取した1本目を髄液一般検査
に使用し、残りを微生物検査や他の特殊検査などに用いる。髄液は成人で1 分間に約1ml の速度で
更新されており、そのため腰椎穿刺では最初に流出する髄液により多くの細胞を含む傾向がある。採
取した順番をスピッツに記入しておくとよい。一般検査の場合、髄液量は1mlあれば再検まで可能
である(細胞数算定・分類200μl、化学的検査200~300μl)。抗凝固剤は原則として使
用しない。特にヘパリンはサムソン液と反応して塵埃状物質が析出し細胞算定が困難になるので注意
する。髄液中の細胞や化学物質は極めて不安定であり、採取後は遅くても1時間以内に検査を開始す
る。
Ⅱ。細胞数の算定と分類
1. サムソン液による髄液希釈
マイクロピペットを用いて髄液180μlとサムソン液20μl(9:1)を混和する。混和する
試験管はプラスチック(ポリプロピレン)製を使用し、管壁への細胞付着をできるだけ少なくする。
サムソン液は市販のものでもよいが、2年に1度は調和し直し一定の染色性を保つようにする。
2. フックス・ローゼンタール計算盤
サムソン液で10/9倍に希釈した髄液は軽く混和後、すぐに計算盤に注入する。フックス・ロー
ゼンタール計算盤を使用するが、最近ではディスポーザブルタイプのものが使用されるようになった。
定価は1枚500円程度と割高だが、計算盤を洗浄する必要がなく、バイオハザード対策にも有効で
あることから繁忙な検査室での利用価値は高い。ただ、ディスポーザブルタイプは計算室内の髄液が
乾燥しやすいため、速やかに鏡検する必要がある。またガラス製の従来の計算盤に比較して計算室の
ライン構成はかなりラフである。
3. 細胞算定の実際
計算盤に髄液を注入後、5分間ほど放置し計算盤の底に細胞が静止するのを持って算定を開始する。
顕微鏡の倍率は200倍(接眼レンズ10倍×対物レンズ20倍)を用いることで細胞算定と分類が
同時に行え効率的である。フックス・ローゼンタール計算盤は計算室の特性から算定した細胞は/3
mm³となる。わが国では従来よりこれをそのままの単位で用いてきたが、細胞数の国際単位は血液
であれ、尿であれ、髄液であれ単位は/μlで示すのが望ましい。したがって、細胞数が150/3
mm³であれば、3で割って50/μlと報告する。
4. 細胞分類の実際
多核球と単核球に分類する。多核球として好中球、好酸球、好塩基球をまとめ、単核球としてリン
パ球、単球、組織球をまとめる。一般検査における髄液細胞分類の第一の目的は早急な治療を必要と
する細菌性髄膜炎の診断である。すなわち、細菌性髄膜炎で増加する好中球を他の細胞と区別するこ
とにほかならない。もちろん、多核球には好中球のほかに好酸球と好塩基球があるわけだが、これら
を計算盤上で明確に鑑別することは不可能である。ただ最近、保存の良い好酸球については計算盤上
でも推定可能との見解をみるが、現状では計算盤では多核球 = 好中球として取り扱う。
計算盤上の細胞は球状であり、計算盤の底に設置した細胞の位置により細胞核の見え方は様々に変
化し、多核細胞であっても核が重なり合えば単核状に見えてしまうことがある。計算盤による細胞分
類のコツは核の形状にとらわれるのではなく、細胞質の形と色に留置することである。以下、計算盤
上の髄液細胞所見(サムソン染色)について述べる。
1)多核球
① 好中球:細菌性髄膜炎で箸明増多し、フクシン色素に染色されないアメーバー状の不整な細
胞質を特徴とする。
② 好酸球:細胞質はほぼ円形で、2核のことが多い。細胞質は淡いオレンジ色を呈しコンデン
サを下げると光り輝いて見える。好酸球性髄膜炎で増加し、原因としては寄生虫感染
症や各種アレルギー反応などが考えられる。
③ 好塩基球:細胞質顆粒などは認められず、好中球と鑑別できない。
2)単核球
① リンパ球:小型で円形の核を有し、細胞質は狭小で核周囲にリング状に認められる。ウイル
ス性髄膜炎で増加する。
② 単球:好中球、リンパ球に比較してやや大型で、切れ込みを持つ核は偏在し、細胞質はフク
シンに強く染まる。これは単球の細胞質内に小胞体が多く、この小胞体内部にフクシン
色素が取り込まれるためと解釈される。各種髄膜炎やクモ膜下出血などの無菌性髄膜反
応で出現する。
③ 組織球:大型でN/C 比が小さく、細胞質には小空砲やヘモジデリンの貪食を認めることが
ある。赤血球片やヘモジデリンを認めれば髄液腔内での出血を証明できる。出血や炎
症、その他物理的刺激で反応性に動員され、出現機序は単球と同様である。
Ⅲ。髄液一般検査における化学的検査
髄液の化学的検査を選択する上で最も重要なポイントは、それらの項目が臨床的意義を有し、確た
る根拠の基に迅速性、正確性をもって、いかに簡単に測定できるかという点である。
1.臨床的意義に乏しい化学的検査
髄液の化学的検査項目は施設によって千差万別であり、100年ほど前に考案された古典的な検査
法が何の疑いもなく継続して実施されている施設も少なくない。質の向上を追及する現代医療におい
て、根拠に乏しい検査を過去の慣習のみで実施することには大きな問題がある。
① ノンネ・アペルト反応・パンディー反応
ノンネ・アペルト反応は1908年に、パンディー反応は1910年に報告され、古典的な髄液
検査のグロブリン検出試験として理解されているが、いずれも真のグロブリン反応ではなく、単に
髄液蛋白の半定量法として認識すべきである。正確な蛋白定量が可能になり、さらには免疫グロブ
リンなどの詳細な検索が日常となった現在、これらの検査法を実施する臨床的意義はほとんどなく
なった。
② トリプトファン反応
トリプトファン反応は結核性髄膜炎の髄液中にトリプトファンが存在することが報告されて
以来、結核性髄膜炎の補助的診断法として応用されてきた。しかし、本法の反応機序はいまだ明
らかではなく、ウイルス性髄膜炎、細菌性髄膜炎やキサントクロミー髄液でも陽性を示すことが
あり、これが臨床の誤解を招く結果となりかねない。また、貴重な髄液材料を1度に1mlも使
用することも問題である。結核菌の迅速検出は迅速培養法やPCR 法などに委ねられるべきであ
る。
③ クロール
髄液クロールの測定も臨床的意義に乏しい。髄液中のCl は血中Cl に由来し、血中より15~
20mEq/l高値を示す。この差はDonnan(の膜)平衡ならびに髄液と血液間に存在する
電位差により生じるとされ、髄液Cl は血中Cl 値の変動に従い増減する。髄液の蛋白が上昇する
とDonnan 平衡に抵抗が加わり、そのぶん髄液Cl は低下する。たとえば細菌性髄膜炎など髄液
蛋白が著名に増加する例ではおのずと髄液Cl は減少する。すなわち、髄液Cl は髄液蛋白量を間
接的に見ているに過ぎない。かつて結核性髄膜炎で髄液Cl が特異的に低下するとの報告がなさ
れたことがあるが、のちにこれは結核性髄膜炎に生じる低クロール血症が原因であることが明ら
かにされた。したがって、血中Cl 値の把握と正確な髄液蛋白の測定がなされていれば、あえて
髄液Cl を測定する必要はないと思う。
2.臨床的意義のある化学的検査
24時間体制の検査室において、必須となる髄液化学検査を挙げるとすれば、蛋白と糖の2項
目である。さらに自動分析装置で容易に測定できることからLD とCK を重要参考項目として
付け加えたい。
1)蛋白
血清蛋白の0.2~0.6%が血液脳関門を通過し髄液に移行するとされており、腰椎穿刺
髄液の蛋白量は健康成人で15~45mg/dlでA/G 比も1.5~2.3と血清値とほぼ
同じである。髄液蛋白は各種中枢神経疾患で上昇し、一般的に50mg/dl以上であれば病
的増加と考えられる。特に細菌性髄膜炎、結核性髄膜炎、真菌性髄膜炎の増悪期や、ギラン・
バレー症候群などで高値を示す。これは、血液脳関門が破壊され、多くの蛋白が血中より髄液
に移行するためである。髄液蛋白の検出法としてはピロガロールレット法が代表的であり、分
光光度計や自動分析装置を用いて測定する。多発性硬化症や脳炎では中枢神経系で産生された
免疫グロブリンにより髄液蛋白が増加するため、A/G 比やIgG の検索が重要となる。
2)糖
通常、髄液糖は血糖値の60~80%に維持されており、その値はあくまでも血糖値に左右
される。髄液糖を評価する際は常に血糖値を参考にし対比する必要がある。髄液糖が低下する
代表的な疾患として細菌性髄膜炎、結核性髄膜炎、真菌性髄膜炎、悪性腫瘍の髄膜浸潤などが
挙げられ、これは髄液腔で増加した病原微生物や好中球による嫌気性解糖作用、あるいは血液
脳関門の破壊による糖移送能障害が原因とされている。測定には電極法や酵素法を用いる。
3)LD
細菌性髄膜炎で髄液中のLD が優位に上昇し、さらに予後推定や治療効果の判定に役立つこ
とから、臨床的に意義のある髄液マーカーとされている。正常髄液やウイルス性髄膜炎のLD
アイソザイムではLD4、LD5はほとんど認められないが、細菌性髄膜炎では著しく増加した
好中球由来のLD4、LD5 が上昇し、そのためLD 値が高くなる。しかし、ウイルス性髄膜炎
であっても髄液中にリンパ球が著名に増加した例ではリンパ球由来のLD2、LD3 が上昇し、
髄液LD が上昇を示すことがあるので注意する。また、腫瘍性疾患や中枢神経組織の破壊が生
じた場合も髄液LD が増加する。髄液LD の基準値はJSCC 法で25U/l以下である。
4)CK
髄液中CK は血中CK と独立して変動し、髄液蛋白量の影響もほとんど受けない。CK には
骨格筋由来のCK-MM、心筋由来のCK-MB、脳由来のCK-BB があるが、髄液中で検出
されるのはほとんどがCK-BB である。髄液中のCK 基準値は6U/l以下で、髄液中のCK
が上昇する疾患には脳挫傷、髄膜脳炎、脳腫瘍、脳血管障害、多発性硬化症などが挙げられ、
その上昇は脳組織の荒廃に由来すると考えられる。髄膜炎症例において、重症例や脳炎に波及
する例では細菌性、ウイルス性を問わず髄液CK の上昇を示すとされている。
【 おわりに 】
日臨技より出版された「髄液検査法2002」に準拠し、標準化を目的とした髄液細胞算定法や化学
的検査法についてまとめてみました。中枢神経系疾患は一般的に重篤な疾患であり、早急な診断と治療
を必要とすることが少なくない。そのため髄液一般検査は24時間体制の検査室で迅速検査項目として
取り扱われるのが通常である。つまり、検査室内のすべての検査技師が髄液検査と接する可能性が高い
わけであり、避けるべきは技師間の知識レベルや技術レベルの差のために患者に不利益を与えてしまう
ことにほかならない。定期的に検査室内で知識や技術の教育を実施し、検査室全体の資質の向上に繋が
るものと思われる。
【 参考文献 】
1.(社)日本臨床衛生検査技師会髄液検査法編集ワーキンググループ
「髄液検査法2002」。(社)日本臨床衛生検査技師会;2002
2.髄液の採取と検査の進め方。Medical Technology 2003;31(5)
3.髄液の生化学検査。Medical Technology 2003;31(5)__
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