Fitz-Hugh-Curtis syndrome (perihepatitis)
Fitz-Hugh-Curtis syndrome (perihepatitis)
3班 0573511M 植村 久尋
1. 疫学、病態:
Fitz-Hugh-Curtis syndromeは主に骨盤感染症由来の細菌(主に、クラミジアまたは淋菌)が下部生殖管(ファローピウス管や結腸傍溝)から横隔膜下部までの腹部を通して広がり、肝周囲の組織の炎症を起こす。15~30%*1の女性がPID(骨盤炎症疾患)を伴っているが、PIDを伴わない女性や男性にも見られる。1930年にCurtisによって肝臓と腹壁の間に、”violin string” adhesionsの存在と、淋菌性PIDの合併症である上部生殖管感染の関係が示唆され、後の1934年にFitz-Hughが肝周囲炎の早期発現を示した。
2. 症状:
感染ルートとしては、肝直接感染し、血行性・リンパ節性に進展する。そして激しい免疫反応
を引きおこす。典型的には突然発症する、右上腹部の頻回の痛みがある。運動、深呼吸、腹部
の触診で、増悪する。また、吐き気や食欲不振も伴うことがある。しばしば、痛みが背中や右
肩に放散する。
3.診断
PIDを伴った上腹部痛は診断の根拠になりうるが、PIDがないと、腹痛をきたす疾患は数多くあるため、診断が難しい。ここで、膣頚部の培地検査を行うと、もっとも一般的な起炎菌であるクラミジア(C.trachomatis)または淋菌(N gonorhoeae)が検出される。また、PCRや核酸増幅試験はより感度・特異度が高く(感度80~90%,特異度96~99%*1)有用である。また淋菌の血清型D or Kに特異的な抗原を用いた間接免疫蛍光検査かELISA法による血清学的検査に基づいて診断される。確定診断は、外科的検査として腹腔鏡検査が行われる。これにより、肝外に典型的な“violin string”adhesionsが見られる。鑑別診断では、腹部超音波やCT(胆石症、肝炎、腎結石、胃潰瘍などを除外)、胸部・腹部X線(肺炎、横隔膜下のfree airを除外)を施行する。
4.治療
抗生物質や鎮痛薬での治療がメインである。抗生物質は特に、淋菌やクラミジアなどの通性グラム陰性桿菌や嫌気性菌をカバーするものにすべきである。投与方法はPID治療のガイドラインより非経口が基本である(ex. cefotetan 2g IVで 12 hoursごと もしくはcefoxitin 2g IV で 6 hoursごと に加えてDoxycycline 100mg 経口またはIVで12hoursごと、続けてDoxycycline 100mg 経口2回/日を14日間*2)またクラミジア(または淋菌)は性交渉を通して波及するので、感染が治まるまで性交渉を制限し、セックスパートナーに対しても同様に対処すべきである
[参考文献]*1 [Fitz-Hugh and Curtis syndrome, Article in French] Garcia Compean D, Blance P,d’Abrigenon G, Larrey D, Michel H. 1995 Oct 7 p.1348
*2 Nadja G. Peter PCLEVELAND CLINIC JOURNAL OF MEDICINE VOLUME 71・NUMBER 3 MARCH 2004 p233~p239
・Mandell, Douglass, and Bennett’s INFECTIOUS DISEASES p.2761
.Walter E. Stamm Harrison's Principles of Internal Medicine 17e p.1070~p.1073
慢性疲労症候群( chronic fatigue syndrome : CFS ) 整理番号3 池内 愛実
慢性疲労症候群(CFS)は、健康な人が、日常生活上支障がでるような著しい疲労感•倦怠感を感じるようになり、それが続くことを主徴とする原因不明の症候群である。仮病ではなく実際に症状があるにもかかわらず、客観的な所見に欠け、診断を確定するのが困難であり、罹患率も正確なところは不明である。
疫学 CFSの患者の多くは25〜45歳であるが、小児期および老年期の発症も報告されている。また、女性に多くみられ、男性の約2倍発症しやすい。多くの先進国で患者が確認されており、ほとんどは散発的に発生するが、集団発生の報告も多い。慢性疲労症候群の大発生も報告されており、共通の環境因子や感染が原因となっていることが示唆されたが、何も同定されていない。
病因 EBVなどのウイルス感染、免疫異常、自律神経障害、視床下部•下垂体•副腎機能の障害による神経内分泌異常の関連などが疑われているが、決定的な関係は見つかっていない。
症状 一般的に、突然おこる、インフルエンザ様の症状または急性のストレスに続いて、耐え難い消耗を感じる。頭痛、咽喉痛、リンパ節圧痛、筋痛、関節痛、頻回の発熱などの症状が数週から数ヶ月も続き、睡眠障害、集中力の欠如、抑うつなどの症状も出現してくる。運動で症状は悪化する。
診断 慢性疲労を説明できる器質的疾患や精神的疾患がすべて除外され、CDCによるCFSの診断基準を満たせば、CFSと診断できる。慢性疲労を説明できる病態としては、甲状腺機能低下症、睡眠時無呼吸症候群、薬剤副作用、悪性腫瘍•B型•C型肝炎の既往歴があり治癒していない場合、慢性疲労発病2年以内および発病後のアルコールや薬物依存症、BMI45以上の極度の肥満などもあげられる。
CFSの診断基準
治療
CFSに有効な薬剤や食事療法などはまだ存在しないが、認知行動療法( cognitive behavioral therapy : CBT )や段階的運動試験( graded exercise therapy : GET )が症状緩和に有効である。CBTは、認知の偏りを修正し、気分や行動を変える精神療法である。運動は症状を悪化させるが、長い間運動しないことでも悪化する。GETは軽い動きから始め、専門家の指導のもとだんだんと運動量を増やしていくことで、症状悪化を防ぐ。その他の症状に対しては、NSAIDs、抗ヒスタミン薬、鎮静作用のない抗うつ薬も有効である。
参考文献
Clinical features
and diagnosis of chronic fatigue syndrome ; Stephen J Gluckman , Peter F Weller
, Anna R Thorner
Approach to the adult patient with fatigue ; Kevin M
Fosnocht , Jack Ende , Robert H
Fletcher , Pracha Eamranond
Treatment of
chronic fatigue syndrome ; Stephen J Gluckman , Peter F Weller , Anna R Thorner
http://www.cdc.gov/cfs/general/diagnosis/index.html
認知療法•認知行動療法マニュアル 日本認知療法学会
リステリア症について 0783541m 43 嶋津裕樹
疫学 リステリア症はListeria monocytogenes(グラム陽性、通性嫌気性、両端鈍円の無芽胞短桿菌)による感染症で、ヒトのほか種々の動物にも認められる人畜共通感染症である。リステリア症の病型は、髄膜炎が最も多く、次いで敗血症、胎児敗血症性肉芽腫症、髄膜脳炎、心内膜炎などが起こる。感染は通常,汚染されたチーズなどの乳製品,生野菜,または肉の摂取によって起こり,冷蔵庫内温度においてもL. monocytogenesが生存発育できる点が有利に働く。
症状
一般的な細菌感染による化膿性髄膜炎および敗血症と同様である。38 ~39 ℃の発熱、頭痛、嘔吐などがあり、意識障害や痙攣が起こる場合もある。健康な成人では無症状のまま経過することが多いが、感染初期には倦怠感、弱い発熱を伴うインフルエンザ様の症状を示すことがある。新生児および60歳を超える患者の髄膜炎の約20%は,リステリアに起因する。症例の20%は脳炎および膿瘍へ進行する。菱形脳炎は意識変容,脳神経麻痺,小脳徴候,および運動失調または感覚失調として現れる。リステリア感染は分娩前および分娩中に母から児へ伝播可能であり,流産を引き起こす。胎児敗血症では、妊婦から子宮内の胎児に垂直感染が起こり、流産や早産の原因となる。妊婦は発熱、悪寒、背部痛を主徴とし、胎児は出生後短時日のうちに死亡することが多い。潜伏期間は平均して3週間と推定されている。妊婦は免疫力が弱くなっているので、妊娠していない人に比べ20倍リステリア症になりやすい。
診断
臨床的には髄膜炎も敗血症も、一般的な細菌感染(特にジフテリア菌)によるものと鑑別が困難で、髄液の検査所見にも特徴的なことがない。患者の髄液、血液および臓器などからL.monocytogenesを検出することが診断確定のために必須である。全てのリステリア感染において,発症から2〜4週間でIgG凝集素価がピークに達する。
治療と予防 リステリア症の治療には、第一選択剤としてペニシリン系特にアンピシリンが有効で、ゲンタマイシン、テトラサイクリン、ミノサイクリンなどとの併用が効果的である。(アンピシリン+ゲンタマイシンの静注が最も一般的)しかし、ゲンタマイシンの相乗効果はin vitroでの検査であり、動物実験では否定的、かつ妊婦では使えないので、注意が必要である。セファロスポリンは有効ではない。またワクチンは実用化されておらず、自然界に広く分布し低温でも増殖するため予防は難しい。ヒトの経口感染に対しては、典型的な細菌性食中毒対策の様に食品の十分な加熱。生野菜は食前によく洗う。特に、リステリア症になりやすい人たちは滅菌していない生の牛乳、あるいは滅菌していない生の牛乳で作った食物、チーズなどを避ける。
参考文献
1) Mylonakis E, Paliou M, Hohmann EL, et al: Listeriosis
during pregnancy: a case series and review of 222 cases. Medicine
; P260-P269
2)Mandell, Douglas,
and Bennett's Principles and Practice of Infectious Disease7thed,P2707-2714
3)F.Allerberger, M. Wagne: Liseriosis: a resurgent
foodborne infection: Clin Microbiol
Infect 2010
側頭動脈炎
0743574m 宮崎はる香
【概念】
側頭動脈炎は巨細胞性動脈炎(GCA)とも呼ばれる、大型〜中型動脈の壊死性血管炎である。頭部の動脈を傷害することが多いが、大動脈自体を侵して胸・腹部大動脈瘤などを引き起こすこともある。
【疫学】
GCAは、50歳未満では基本的に発症しないとされており、加齢が最大のリスクファクターである。また北欧諸国や、米国内でも北欧出身者の多い地域で特に発生率が多く、日本では比較的まれな疾患である。50歳以上の年間発生率は10万人あたり6.9〜32.8人とされている。
【症状】
発熱、倦怠感、体重減少などの全身症状や、各部の虚血による頭痛、顎跛行、複視などの眼症状、PMRの症状(肩、頸部、腰部の疼痛や朝のこわばり)などがあり、症状は緩徐に発現することが多い。
ほとんどは非特異的な症状だが、顎跛行は感度が少し低いものの比較的特異的な所見である(LR+4.2,LR−0.72)。また、眼症状として多いのが一過性黒内障で、虚血性前部視神経炎に移行することがある。最も気をつけねばならない合併症は失明で、GCAの15〜20%の人が一側あるいは両側を失明する。
また側頭動脈傷害がある場合、側頭動脈の圧痛、肥厚、結節を認めることがある。
50歳以上で、頭痛、突然の視力障害、原因不明の発熱や貧血があり、血沈亢進(ESR≧50mm/時)、CRP高値が認められる場合、GCAを強く疑い、確定診断のため側頭動脈生検を行う。生検は感度85%特異度100%である。エコーやMR/MRA、PETなども診断に有効なことがある。エコーでは、感度は69%であるものの、動脈の内腔周囲に低エコーの輪(halo)がみられることがある(下図)。
【治療】
GCAが強く疑われる場合は、ステロイド療法を開始する。特に眼症状が認められるときには、たとえ診断がついていなくても直ちに治療を行い、失明を予防する必要がある。
失明など、虚血による臓器障害が合併していない場合、プレドニゾロン40〜60mg/dayで開始し、1ヶ月後から全体量の10%ずつ漸減していく。投与量が10mg/day未満になれば、1mgずつゆっくり減らす。
参考文献
Diagnosis of giant
cell (temporal) arteritis,Gene G Hunder ,2011:UpToDate
Treatment of giant
cell (temporal) arteritis,Gene G Hunder , 2008:UpToDate
Clinical
manifestations of giant cell (temporal) arteritis,Gene G Hunder ,2010:UpToDate
HARRISON’S Principles
of INTERNAL MEDICINE,p2126-2127
感染症内科BSLレポート
●PMRとRS3PE症候群について
・リウマチ性多発筋痛症(polymyalgia rheumatic:PMR)
リウマチ性多発筋痛症は、頚部、肩、下背部、殿部および大腿のこわばり、うずき、疼痛を特徴とする。通常は単独で発症するが側頭動脈炎患者の40~50%にみられ、また単独発症患者の10~20%は側頭動脈炎へと進展する。このことから、PMRと側頭動脈炎は同じ疾患の経過の異なる範囲を表現しているという意見もある。
診断には次の項目が重要とされている。50歳以上の患者に多く見られる。左右対称の痛みと30分以上続く朝のこわばりが少なくとも1カ月続く(こわばりは、首や胴、肩や上肢近位部、殿部や下肢近位部の3項目のうち2項目の領域で見られる)。赤血球沈降速度≧40mm/hと亢進する。うつ状態ないし体重減少がある。発病から2週間以内に症状が完成する。上記のうち、3項目を充たす場合PMRを疑う。
治療は単独発症では、低用量プレドニゾロン投与で1週間以内に寛解する。側頭動脈炎合併例では、視力障害があれば直ちに治療しながら、プレドニゾロンの2年以上の投薬が必要とされる。
・RS3PE症候群(remitting seronegative symmetrical synovitis with pitting edema syndrome)
RS3PE症候群の症状はPMRの症状とよく間違えられるので、鑑別が重要になる。RS3PE症候群の典型例は、多発関節痛の急性発症があり、50歳以上で、リウマトイド因子が陰性である。症状はふつう四肢末端に浮腫が多く見られ、この点がPMRとは異なる。固形腫瘍や血液系疾患と関連する腫瘍随伴性の障害をもつ患者もいる。治療は低濃度プレドニゾロンで短期間に寛解するが、この治療に反応しない患者では悪性腫瘍の可能性が増えると言われている。
・PMRとRS3PE症候群を下表のように比較してみた。
〜参考文献〜
•Harrison’s Principles of Internal Medicine
•UpToDate:Clinical manifestations and diagnosis of polymyalgia rheumatica;Gene G Hunder,MD
<腎細胞癌renal cell carcinomaについて>
No.84 山崎悠太
■疫学
男女比は約2:1で、罹患率は10万人当たり男8.8人、女3.2人であり、増加傾向である。50~70歳代でとくに頻度が高い。リスクファクターは、喫煙(20~30%)、高血圧、職業性曝露、肥満、末期腎疾患に伴う後天性腎嚢胞性疾患(透析関連も)や結節性硬化症、von Hippel-Lindau症候群などの遺伝性疾患などがある。早期発見の増加などにより、5年生存率は改善している。
■腎細胞癌に伴う症候
○原発腫瘍によるものとしては、血尿(40%)、腹痛(40%)、腹部腫瘤(25%)、貧血(33%)などがある。これらが症状として現れるのは、進行癌の場合が多い。
○腫瘍の腎静脈や精巣静脈さらには下大静脈への浸潤によるものとしては、精索静脈瘤(男性患者の11%)、下肢の浮腫、肝機能障害、肺塞栓症などがある。
○遠隔転移によるものには、肺転移による血痰や咳そう、骨転移による疼痛や骨折などがある。
○腫瘍随伴症候群として、発熱(20%)、体重減少(33%)、全身倦怠感、高血圧(20%)、高Ca血症(5%)、赤血球増加症(erithropoietin産生腫瘍による;3%)などがある。
CT、超音波検査などが広く利用されるようになったため、他疾患の評価中などに発見される無症状の偶発癌が増加していて、最近では70%以上が偶発癌として発見される。
■診断
診断には超音波検査、腹部・骨盤部CT、尿検査、尿細胞診などを行う。切除可能な腎病変に対して針生検は通常行われない。理由として、特異度が低いことと腫瘍の播種を防ぐことがある。腎腫瘤の鑑別疾患としては、嚢胞、良性腫瘍(血管筋脂肪腫、腺腫、好酸性顆粒細胞腫)、その他の原発性・転移性の悪性腫瘍などがある。浸潤や転移の評価を胸部レントゲン・CT、骨シンチ、頭部CT・MRIなどを用いて行う。
■治療
○腎臓内に留まる限局癌には、腎部分切除術や腎摘除術を行う。
○腎静脈や下大静脈に浸潤する局所進行癌には、腎摘除術(体外循環併用や浸潤臓器合併切除)と補助療法を行う。
○遠隔転移を有する進行癌には、可能である場合は腫瘍減量術tumor debulkingとして腎摘除術を行い、免疫療法(IL-2やIFN-α)や分子標的治療や放射線療法を行う。
※転移を有する腎細胞癌の多くは化学療法に不応で、IL-2やIFN-αによる免疫療法が10~20%の症例に有効であるにすぎない。遠隔転移を有する進行癌の80%異常は明細胞癌であり、この組織型ではVEGF受容体やPDGF受容体を介したシグナル伝達経路のtyrosine kinaseを阻害する分子標的薬sorafenibやsunitinibの治療効果が認められている。これらはIL-2療法が行えない未治療の進行癌の症例や、前治療歴のある進行癌症例に用いられ、生存率を向上させる。また、別のシグナル経路を阻害するmTOR阻害薬のtemsirolimusも未治療の症例や前治療歴のある症例に治療効果を示す。
参考文献:Harrison内科学 p.620-621
腎癌診療ガイドライン 2007年版 日本泌尿器科学会/編
UpToDate19.1 Overview of the treatment of renal cell carcinoma
Epidemiology,pathology,and pathogenesis of
renal cell carcinoma
Clinical manifestations,evaluation,and
staging of renal cell carcinoma
Molecularly targeted therapy for advanced
renal cell carcinoma
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